探偵日記 9月11日

朝のニュースで、松下金融相が自殺したことを知った。12日発売の週刊新潮に女性問題をすっぱ抜かれることを苦にしての事だという。野良犬みたいな探偵の僕には信じられないことだが、所詮役人上がりのひ弱さが出たのか。妻とは別居しており、有る意味自由に生活していたのだろう。古い諺に「糟糠の妻は堂より下さず」というのがある。貧しい時代に苦労を共にしてきた妻を、自分が出世して偉くなったからといって家から追い出してはならない、という意味のようだが、松下さんの場合、妻を追い出す代わりに自分が出て行ったのだろうか。

最近の夫婦はこの傾向が強い。不倫の果て、妻や子供たちを置いてさっさと出てゆく夫が多い。等と考えていたら、昔、大臣経験者の国会議員の素行調査をしたことを思い出した。まだ若かった僕は、調査をしながら「英雄色を好む」という言葉を実感していたものだ。もうゆうに還暦を過ぎていたマルヒは、日々精力的に過ごしていた。徹夜国会のあとでも、国会近くのホテルで仮眠を取った後、銀座に繰り出し、翌日の日中別のホテルにママを呼んで、5~6時間励んでいた。笑えたのは、その議員さん昼の11時頃、新橋のうなぎやさんに行き二人前注文したことである。依頼人の奥さんによれば、「朝生卵を二つ食べました」とのこと。今の僕など、何を食べようと元気になることなど無い。(笑)

しかし、今思えば、依頼人の奥さんは偉かった。一応事実関係を知ったものの騒ぎ立てることも無く、(主人の一番大事な時期に、相手の女性が暴露することのないようにするにはどうしたら良いか)と、僕に相談してきたことだ。また、調査を担当した僕や僕の事務所に対しても、夫が議員を退くまで懇ろに扱ってくれた。勿論、僕を信用しなかったわけではない。危機管理を徹底したまでであろう。まさに、(糟糠の妻)であった。

比較して、松下さんの奥さんはどうだったか。或いは、相手女性はどんな性格の人だったのか。まだ記事を読んでいないので分からないが、つまるところ、(内部告発)に違いない。閨房でのやりとりを、いかに敏腕記者といえども知ることは出来ない。誰かが密告しなければ得難い情報である。

とにかく、女性に限らず人の心ほど怖いものは無い。愛されている時は天使のように思えても、一旦関係が悪化したら鬼にも蛇にもなるのが女性の特性で、男とて同様である。自分から離れていった女性の顔に、(薬物を振りかけてきてくれ。)なんて依頼も無くはない。当然ながら引き受けることは無いが、窮した探偵は引き受けるかもしれない。

世の諸兄は、くれぐれもご用心して下さい。