探偵日記


2021・03・30 火曜日 晴




朝から不愉快なことがあった。僕は中央線を利用するのだが、新宿に行くため快速電車に乗った。最近体幹の衰えが酷く電車が揺れるとよろけるので、すぐに手すりを掴んだ。すると、その手を払いのける人がいた。僕は振り返って(何かしましたか?)と聞いたが、その人、まだ30歳ちょっとの真面目なサラリーマン風の男性が何も言わずに睨みつける。まったく接触していないのに何だろうと思い再び手すりを掴もうとするとやはり僕の腕を払いのける。彼との間隔は十分開いているので何ら問題ないはずなのに、やはり無言で睨みつけている。理由は不明だが機嫌が悪いんだろう。と思い(君子危うきに近寄らず)とばかりに次の駅で車両を変えた。すると僕と同じような人がいて「なんだかヤバいですよね」と言う。おそらくかなりの変人なんだろう。もし家庭を持っているならば間違いなく不和だろうし、勤務先でも問題ありの社員だろう。歌舞伎町でヤクザに絡まれたこともなく、どうかすると挨拶される僕も気違いは避けたい。ましてや今日は某弁護士事務所に行く大事な予定がありもし事件になれば折角の受件も出来なくなる。くわばらくわばら(笑)




受件の妙味 2




その依頼人の内容は家を出て離婚の調停を申し立ててきた妻の住所が知りたい。というもので良くある依頼であった。まあ、若いサラリーマンでもあるし真面目そうなので少し同情した僕は、指定された日時に1回やれば解決する案件だと考え5万円で引き受けた。ところが、家庭裁判所を出てからの彼女の警戒が尋常ではなく、しかも、途中交番に駆け込まれる始末。その日は不首尾に終わった。事情を話し改めて勤務先からの尾行に切り替え、最終的に11日かかってしまった。依頼人は申し訳ないと言い、追加の調査料を支払うと言ってくれたが断った。我々はプロの探偵である。一度決めた調査料を引き上げるような無様なことはしたくない。ともあれ、苦労した調査だったが解決し、依頼人も恐縮して、丁寧に謝意を述べてくれ一件落着した。




それから数か月たった或る日、或る人に紹介されて。と言って、田園調布に住むご婦人から夫の素行調査を依頼された。ちょっと執念深い依頼人で、結果が出た後も長い間調査を継続し、1000万円近い報酬を頂いた。途中、分かったのだが、紹介者は家出した妻の調査を頼んできた人だった。そして、さらにそのご婦人から別件で紹介されたのが上場目前のくだんの会社で、今でも時々お呼びがあり、これまで頂いた報酬は計算できないぐらいである。・・・