探偵日記 05月02日土曜日 晴れ
翌日から犬鳴の六本木詣でが開始された。毎日のように顔を出す客を粗末に扱う店はない。例え、超高級の人気店であれ、犬鳴のような鷹揚な客は稀だったようで、支配人以下スタッフが全員挨拶に訪れる。時々来るタレントも(あいつはなんだ)と噂になったという。勿論、最初から席に着き、今や自分のパートナーとなったタカコにとって、店にも、他の同僚にも誇れる(金づる)となった。中でも、犬鳴が帰るときタクシーを手配するボーイにとって、月々の給与を上回るチップが貰えるので、犬鳴が行くと満面の笑みで迎えてくれた。ただ、犬鳴には本来の目的があり浮ついてもいられない。それは、タカコを通じてマルヒの愛人の動向を探る重要な役割があったのである。タカコとマルヒの愛人は毎日のように電話で長話をする。詳しくは書けないが、犬鳴探偵事務所は、その通話内容をすべて録音していた。例えば、或る日の会話。愛人(昨日さ~彼がプレゼント持ってきたんだけど何だと思う)タカコ(うん、指輪?)愛人(指輪はこの間2000万円のダイヤを貰ったけど、昨日は車よ)という具合で、マルヒは、彼女に2000万円のベンツ560SLを買ってやったらしい。
とにかく当時は国民すべて狂っていたが、特に不動産業に従事する輩は我が世の春をお謳歌していた。信じられないかもしれないが、今日1憶円で地上げした土地が翌日10憶円になった時代である。またまた、ほら吹きの犬鳴が。思うなかれ、犬鳴自身が持っていた僅か18平米のワンルームのマンションが、購入時(1230万円)の6倍以上の7500万円で売れた時代だった。・・・・