フードの社長 その1

10月5日金曜日

昨日は、またまた台風の中のゴルフだった。ところが、幸いにも9月30日のコンペ同様、台風の気配はあるもののプレーには全く影響しなかった。昨日などむしろ暑いぐらいで、木陰を選んで待ったり、歩いたりした。ただ、何でもないところでミスしたり、高麗芝に合わずことごとくカップにけられたりでスコアは平凡な数字に終わった。夜は地元の阿佐ヶ谷で過ごす。

朝5時起床。千切れんばかりに尻尾を振って待っているタイちゃんに声をかけながら散歩の支度。ひんやりとした朝の空気が清々しい。タイちゃんは今日もCコースを選択し元気良く歩く。------



フードの社長 その1

時々、僕ら探偵をスーパーマンみたいに思って大きな勘違いをしている依頼人が居る。まあ、虫けらみたいに思われたり、無能よわばりされるよりましかもしれないが、こんな依頼は御免被りたいし、間違っても引き受けない。しかし、中にはとてつもない馬鹿なエセ探偵がいて、信じられないことをする。数年前、当時、東京杉並に事務所を持っていたY探偵。ホームページの広告で細々と営業していたように記憶するが、或る時、殺人の依頼を引き受けた。依頼人は女性。殺人の内容は(不倫相手の奥さんを殺ってくれ)というものだった。報酬は350万円。勿論、金額云々ではないが、何処の誰がこんな報酬で殺人を引き受けるか。依頼人もそこのところを良く吟味するべきだった。

僕は、この話を初めてきいた時、(ああ、Yは最初から実行する気がなかったんだな)と思った。事実その通りで、Yは、後輩の探偵まがいに話を振って自分は知らん顔をした。当然ながら、報酬金額350万円の下請けである。もしかしたら100万円位貰ったかもしれないが、下請け君も知らん顔をした。二人は、「内容が内容だけに第三者にもらすことは無いだろう」と考え高をくくっていた。ところが、依頼人の女性は、こともあろうに、「お金を支払ったのに仕事をしてくれない。もしかしたら詐欺ではないか」と言って、渋谷警察に駆け込んだ。依頼人と二人のアホなエセ探偵三人がお縄になったことは想像に難くない。

僕は思う。依頼人の女性の精一杯が350万円だったこと、受件した探偵がド素人だったこと、ちょっぴり頭を働かせ、報酬と仕事の難易度、危険性を天秤にかけたこと、度胸が無かったこと、等々が幸いした。密入国している外国人なら50~100万円でいとも簡単に引き受ける。そうなれば女性は殺人の教唆または主犯となりかねないし、不倫夫の奥さんは殺されていたかもしれない。

僕も、40数年の探偵稼業で何度か殺人の依頼を持ちかけられたことがある。決してお利口さんでない僕に今が有るのは(少しばかり倫理観を持っていることに加え度胸がない)からで、これから書く話も、勿論成立しなかった「殺人依頼」の顛末である。

押し殺したような声で、調査部長の池沢が電話をしてきた。「もしもし、所長ですか、池沢です」と言う。この頃は、30人近い調査員がいて、黙っていても次々に仕事が入り事務所の経済も充分潤っていた。僕は、邪魔物扱いされ(勝手にそう決め付けて。笑)昼過ぎになると決まって、行きつけの雀荘で遊んでいた。リーチ等と言いながら、煩そうに(ウン何?)と応えると、「今貰ってきました」と池沢。何のことか全然分からない。こっちは忙しいんだ。と思ったがいくらなんでもそうは言えない。この池沢も僕に輪をかけた雀キチである。仕方なく(貰ったって何を?)と聞くと、池沢部長は、やや誇らしげに「あの~昨日お話しした例の社長から5千万円を」と言うではないか。エッと言ったきり僕は絶句した。----