10月8日月曜日(祭日、体育の日)晴れ
連休3日目、特に用事も無いのに今日も事務所。ドコモは相変わらずお休み。昨日まで出来たメールの発信が出来なくなった。(泣)「ご利用ガイドブック」をいくら読んでも解らない。特に学校の成績が悪かったわけでもないが、とにかく僕は機械オンチだ。こんなことも有った。車の免許を取って、運転初日、夜になった。教習所では昼間しか行かなかったので、ライトのつけ方が解らない。困った僕は、走ってきたタクシーを止め(すみませんライトはどうやってつけるのですか)と聞いたら、運転手さんは怪訝な顔をしながらも「俺の車はこうするんだけど」と言って、カチャカチャと操作してくれた。(どうも有り難うございました)と、丁寧にお礼を言って自分の車に戻った。聞くは一時の恥、知らぬは一生の恥。何て諺があったけど、この場合、知らぬは死の危険に晒されかねない。
と、まあこんなわけで、パソコンを始めて8年も経つのにまだ良く解らない。調査員や、息子に聞くのだが、皆めんどくさそうに教えてくれる。それもその筈で、初歩的なことを聞くことが多いらしい。フンだ。お前たちは「年寄り笑うな行く道ぞ」って言葉を知ってるか?そのうち確実に年を取るんだから。
ところで、あの殺人依頼上手く断れたかな。
フードの社長 その4
「分かりました」と言って、T社長は帰って行った。勿論、5千万円の小切手を持って。その後姿を見ながら、僕は、池沢の顔を見てニッと笑った。池沢も釣られて笑う。勿論、依頼人を馬鹿にして笑ったわけではない。はっきり断ったわけではないが、もう、T社長は二度とこんな依頼をしてこないだろうという安堵の笑みである。
思ったとおり、その後、T社長からぶっそうな依頼はこなかったが、池沢を通じて、諸々の案件を引き受けた。中には、僕の指示で、池沢が提案した調査もあった。これは調査といえないような作業だったが、調査員の一人をT社長の会社に入れたことが有る。確か熊本出身の男だったが、僕の事務所に入社して間もない(見習い探偵)だった。名前はO、九州男児だからというわけでもないだろうが、やや無骨な感じの男で、見ようによってはハンサムの部類に入るだろう。T社長の会社から支給される給与は、(君の小遣い兼何かの時の調査費用に当てるように)と言ったら快諾した。
T社長の会社で(経理見習いの社員募集)をしてもらい、その社員に応募させた。実は、T社長の奥さんも毎日会社に出勤していて、くだんの経理部長といい仲になったのだが、当事務所の調査員は、二人の監視と、あわよくば、経理部長と奥さんを引き離す目的を与えられた。採用されたOは、毎日T社長の会社に出勤し、退社後、本来の事務所に戻ってきて池沢に報告する。という日々を数ヶ月過ごした。池沢は、T社長と1週間に1度ぐらいの割合で会って中間報告をする。
しかし、そのうち困ったことが起きた。Oが「辛いから辞めたい」と言ってきた。訳を聞いてみると、「奥さんを本気で好きになってしまった」と言う。これを聞いて僕は、(ミイラ取りがミイラになった)という言葉を思い出した。Oは、自身に課せられた本来の目的を忘れてしまったのだ。経理部長と奥さんの動向を監視しながら、出来るだけ奥さんに好意を持たれるよう努力しているうちに、奥さんのほうがOに好意を寄せはじめ、それに応えるようにOもまた奥さんに恋慕の念を抱き、抜き差しならぬ関係になった。らしい。
ただ、Oの偉いところは、僕の事務所も、T社長の会社も同時に辞め、その後、奥さんとの連絡も一切絶ったことである。奥さん、すなわちT社長の妻はOよりかなり年上だったが、なかなかの美人である。異性との交わりが少なく、社会的な経験も浅いOがそうなったとしても責められない。池沢は、T社長にそうしたOの状況は伝えず、(調査方針)の変更を申し出て、暫くは、僕の事務所とフードの社長の関係は続いた。------- 了