ストーカー その3
今朝の朝刊を見て、やっぱり。と思った。神奈川県逗子市のストーカー殺人の犯人に、被害者の現住所を知らせたのは(探偵)だった。犯人がどんな理由で依頼したかは分からないが、業者は引き受けるべきではなかったような気がする。というのも、偶然、昨日同様の問い合わせがあり、僕は、調査員や、事務所の者の居る前ではっきり断った。電話の相手に対し、断る理由も明確に伝えたので、先方は勿論、事務所の者たちも僕のスタンスは理解できたと思う。問い合わせの内容は、(交際していた男性の自宅の住所が知りたい)というもの、聞いてみると、勤務先、出身校、生年月日、所有する車のナンバー、当然だが、本名、探偵社は、これだけの情報があれば容易いものだ。方法は書けないが。
先方の女性には、(貴方の依頼内容はストーカー行為に繋がるからお引き受けできない)更に、食い下がる女性に対し、(じゃあ、住所を知ってどうするの)と聞くと、「奥さんに会って全部ぶちまける」と言う。全く無知なのか、女の意地というか、執念なのだろうか。しかし、夫婦は一体のものである。一方に配偶者に、他方のスキャンダルを伝える行為は、(脅迫)になりかねないし、仮に、妻、または当事者の夫から1万円でも貰えば、立派な恐喝となろう。
さて、僕の事務所で引き受けているストーカー君の調査はどうなったか。
一見、好青年に見えるマルヒはその後も嫌がらせを続けたが、マルヒの尾行や家族の状況、勤務先の上司、等を調べ、最後の仕上げに入った。依頼人は、警察沙汰にしたくない。と言うし、弁護士に中に入ってもらう方法も考えたが、そうすることで、マルヒの感情が憎悪を倍加させる危険もある。まさに、逗子市の事件に発展しかねない。少々、弁護士法に触れるかもしれないが、(この部分の業務に対する報酬を得ない)前提で、僕が伝言役になることにした。まず、マルヒの直属の上司に面会し、状況を説明。
僕の話を聞いて、上司は大層驚き、「彼がそんなことをするとは信じられないが、事実であれば社名にも傷がつくし、自分の立場も悪くなる。とにかく、彼の将来のためにも穏便に収めたい」ということで、こちらの希望する条件と一致した。某日、マルヒ、くだんの上司、僕、依頼人が勤めるクラブの支配人、が、ホテルの一室に集まった。まず僕が、マルヒに対し、(一連の事件は君の仕業だよね。このまままだ続けるのか、今後一切このようなことはしない。と約束し、誓約書を書くか、この場で決めなさい。)と言うのに対し、マルヒは「何のことか分からない。自分に間関係ないことだ」と言い張った。僕が上司の顔を見るとムッとした表情で呆れている。
なのでマルヒに対し、(僕は名刺を見ても分かるように探偵だよ。君も潔くないね^じゃあ聞くけど、某日18時・・分、会社を出た君は公衆電話で00さんの自宅に無言電話をかけただろう。それから-ーと、)数日間の尾行によって得た状況証拠を示し、(後は警察でやって貰いましょう。でも、そうなると君の人生は終わるし、立派なご両親や、弟と妹さんの将来にも少なからず影響する。また、ここにいらっしゃる・・さんや、会社にも大きな迷惑をかけることになるけどそれでも良いのか)と言ったところで、勝負が付いた。
いきなりひざまづいたマルヒは大声で泣き出し、「もう絶対にしません。すみません」という言葉を繰り返し、その後は、会話にならなかった。翌日、再びマルヒと上司が僕と会い、マルヒが書いたという(誓約書)と、依頼人に対しての(詫び状)を差し出した。最後に、マルヒに対し、(君の感情も一時的なものだと思うので、誓約書の内容を信用しよう。ただ、次にやったら分からないよ。それと、君のした不法行為の時効は3年だから、もう一回やったら間違いなく逮捕されるよ)と念押しをして、二人と別れた。
その後、依頼人の店に何回か客として行った。なるほど六本木の高級クラブだけのことはある。僕に良く行く歌舞伎町のクラブだかスナックだか分からないようなお店とはかなりの落差があった。依頼人や、ママ、支配人とゴルフにも行ったりしたが、次第に疎遠になった。何故って?決まってるじゃあないか、探偵のお小遣いって微々たるものだよ。------(了)