探偵日記

探偵日記 11月12日月曜日

今日からまた新しい週が始まる。ただ、生憎の天気。朝5時起床、携帯のアラームよりも正確なタイちゃんの気分時計。元気良く飛び出したものの雨あがり、仲間の香りを探すのに苦労している。仕方なく、中央線の高架下へ。往復すると1700歩、時間にして25分ぐらい。もう一度一回りするか。と思ったら、タイちゃん何故か抵抗する。足を踏ん張って歩こうとしない。最近ちょっとしたことでかっとなる僕は、(ふざけんな)と思ったが、孫とタイちゃんには勝てない。ハイハイ分かりましたって感じでお犬様に従った。散歩から帰って来た後、また降り出した雨も家を出る頃には止み、途中、藪用を済ませ、12時少し前、事務所に着いた。調査員と明日からの名古屋の仕事について打ち合わせ、何時ものようにランチに行く。

昨日まで、3回に分けて書いた「ストーカー」四十数年の間、様々な案件を経験した。前に書いたとおり、今思えば加害者側からの依頼が多かったように思う。勿論、被害者からの依頼も少なくは無いが、こちらはかなり苦労する。神奈川県逗子市の事件は、ある程度、女性のほうが警戒していたケースだが、まったく無警戒で居る状況で、ストーカーされていた。なんてケースもあって、こっちのほうがある意味怖い。住まいの前のマンションの一室にアジトを作り、24時間体制で監視される場合だって無い訳ではない。仮に、目的は何であろうと、高額の費用を提示され、「徹底的に調べてくれ」と言われれば、そのような調査になるかもしれない。

ちょっと怖い話を一つ。ーーーーーーー

マルヒは大手企業に勤務するまだ若いサラリーマン。依頼人は、俄か成金に近い中年の男性。小規模ながら業績が右肩上がりの会社の会長。

サラリーマンは慶応卒の俊才。月給だけでは車も買えない。と、家庭教師のアルバイトをすることにした。派遣会社に登録し、回ってきた先が、会長の愛人宅で、会長がその愛人に生ませた女の子の勉強の指導をする。というものだった。よくある話で、サラリーマン君この愛人とできちゃった。会長はもうすぐ古希を迎えるお年、愛人はまだ三十半ば、美人の上スタイルも申し分なく、そこはかとなく滲み出る色香といい、彼女に誘われれば、100人居たら100人まず断らないだろう。最初は、こそこそデイトしていたが、次第に大胆になり、子供が学校に行っている時間帯に、自宅マンションに連れ込むようになった。サラリーマン君、会社には適当な口実をもうけ数時間外出して愛人宅に入びたった。

ところが悪いことは出来ないもので、まず、会長のお抱え運転手が気づいた。時を経ずして会長の知るところとなり、挙句、二人は手に手を取って、お定まりの(駆け落ち)である。残されたた子供は会長の姉だか妹だかが等分の間世話をすることになったらしい。愛人は、元銀座のクラブで働いていた。どうせそんなところだろうと、会長は探偵社に依頼し、やがて、二人の愛の巣を発見した。

或る日、関連会社の責任者から電話があり、「所長、(彼は僕の事務所から独立した男で、今でも僕のことをそう呼ぶ)変な依頼があるんですがどうしたら良いでしょうか」と聞く。彼は、僕に意見を求めてきたときには、もう自分なりに結論を出していることが多い。そんな癖を知っているから、(また自慢話でもしたいんだろう)と思ったが、サービス精神の旺盛な僕は、(うん、どんな?)って聞いてやる。その変な依頼はこうだった。

その依頼人は、住所を書いたメモを示し、「簡単な仕事なんだ。この部屋から出てくる男の通勤経路を調べて欲しい。」さらに、「家を出る時間、駅までの道順、駅でどの電車に乗るか、帰りは、どの駅を利用するか、会社からその駅までと、自宅の最寄り駅から家に帰る道順、特に、家と駅の往復を詳しく知りたい。それから写真も撮ってくれ」と言った後、この調査について、「お宅の記録に残さないでやって貰えるか?君の名刺もお返しするし、報告書も領収書も要らない。」と言い、調査費用は全額前金で支払ってくれたらしい。(ちょっと気味が悪いね)僕がそう応えると、彼も「何でしょうかね~」と、興味津々である。

で、引き受けたの? 彼、えぇまあ。と言う。はなっからやる気満々なのである。この頃(今でもそうらしいが)外国人に依頼すると30万円~100万円で殺人を請け負ってくれるらしい。この依頼人は、何らかの理由で、男性を消してしまいたいのだろう。

その後、その男性がマンションから居なくなったとか、死亡したようなニュースは聞かない。ただ、僕は常々思う。(人に怨まれるような事はしないほうが良い。特に、金持ちには)----------