最近、似たような素行調査が立て続けに入った。貧乏探偵事務所にしては珍しい現象である。その一つ。依頼人は横浜在住のご婦人。会ってすぐに分かったことだが、かって、少し名の売れた女優さんだった。もう60歳は過ぎているだろうか、しかし、まだまだなかなかの美形である。マルヒ(調査対象者)は勿論彼女の夫。依頼人曰く、「夫は女房の私が言うのもなんですが、石原裕次郎似のいい男で、お歌も上手です。」また、「私たち夫婦は、周囲の人達も認めるぐらい仲良しで、お友達も羨ましがっているほどです」などと言った後、「夫が現在何処に住んでいるか調べてもらいたいのです」と言う。マルヒは、銀座で年商200億円程度の会社を経営。顧客に恵まれ業績は安定しているらしい。或る日の朝、夫は、何時もと全く変わらぬ様子で「じゃあ行ってくるよ」と言って外出。依頼人もまた、いつもそうするように、玄関まで見送り「行ってらっしゃい」と言って送り出したという。しかし、夫はその日を境に帰宅しなくなった。常より、やれゴルフとか、接待などを口実に外泊の多い夫のことゆえ2~3日は気にも留めなかったが、1週間を過ぎ、少々不安になって会社に電話してみた。夫はすぐに出て、「どうなさったんですか」と聞く依頼人に対しこう言ったらしい、「悪いけどもうそこには帰らない。前から考えていたのだけれど、僕ももう古希に近い年になって、残りの人生を好きに生きてゆきたい。」だから、もう帰らないと言う。依頼人は、何がなんだか分からないけれど「目の前が真っ暗になって、その場にしゃがみ込んだ」らしい。随分純情でのんきな奥さんだな。と思って依頼人を見ると、今にも泣き出しそうな目で、じっと僕を見つめていた。——―続きは明日