とりあえず中間報告をしようと依頼人に会うことにした。まず、写真を見せて、本人確認をしたあと初日の説明に入る。風俗嬢を買ったくだりで絶句した依頼人は、同じ日に会社の事務員とデートした報告に移ると全く無言になってしまった。暫くして、「実はこの人の前の事務員と変な関係になった可能性があるのですが、証拠を掴む前に、夫がその事務員を連れて来て、彼女曰く、「二人は奥さんが思っているような関係ではありません。しかし、疑惑を持たれたのなら会社に勤め続けるのも嫌ですし、この際退社いたします。今後一切ご主人とは会いませんし、連絡も取りません」と言って、さっさと辞めていったという。
それから3日後、ふらりと会社を出たマルヒは、初日と同じように五反田のデートクラブに行き、同じ女性と同じホテルに入った。3時間後、ホテルを出たマルヒは、品川で40歳位の女性と合流。デパートで買い物を済ませると品物を女性に渡し(じゃあ)と言ってあっさり別れた。ここで、調査員は二手に分れ、2班が女性の尾行を開始。女性は、山手線で有楽町まで行き、地下鉄日比谷線で築地駅下車。超高層マンションに入った。エレベーターに乗る時、メールボックスを覗いてくれたため、彼女がマンションの住人で「2506号室」が居室であることもあわせて判明した。
いっぽう、マルヒは青山のステーキハウスで数人の友人と合流、食事を終えて帰路に着く。女性と同じ築地駅にて下車。驚いたことに、先刻別れた女性が迎えに来ており、仲良く手をつないで超高層マンションに帰っていった。その様子は、調査員らにも真実仲の良い夫婦と写ったようで、僕に、「かなり長い関係でしょう」と感想を漏らした。後日の調査で、マルヒと暮らす女性が、かって、社内で噂になり依頼人の逆鱗に触れた人だった。ということは、7~8年前「私たちは何でもありません」と言って、依頼人を欺いた二人だったが、その後しっかり結びつき、恐らく、将来の約束も出来ているのだろう。女性の表情にもそうした安定した幸せが感じられた。「夫婦」民法の「婚姻」という期限の無い契約を交わした男女。或る人は、(黄昏)を思い、また或る人は、(人生の収穫期)という、幸せに、仲睦まじく終える夫婦の人生の困難さを、考えさせられる一つの調査だった。(おわり)