探偵日記 7月17日水曜日曇り
今日も比較的早めに家を出て事務所へ。高子がお休みなので、他の女性二人は出勤していた。10時半現在、調査員は誰も出てこない。昨日、同業者とお茶した時、彼が言った。「福田さんのところは14番目になりましたね。」と、何のことかと思って聞いてみるとインターネットのホームページの順位だという。但し、10番以下にならないと効果は期待できないらしい。そのために、その同業者は毎月100万円近く掛けているらしい。それでも「全く問い合わせがない」と言って嘆いている。帰社した僕は事務所で聞いてみると夕方には3位まで上がっているという。(ほんまかいな)少々懐疑的になった。何故ならば何らそのための努力をしていないのに。である。でもまあ何でもいいから仕事が入れば言うことはない。(犬も歩けば棒に当る)という諺があるが、猿(僕は申年)はいくら歩いてもダメかな~
今朝は少し寝坊して4時半に散歩に行く。しかし、外に出たら小雨が降っておりタイちゃんは高架下へ。面白くないのかさっさと大を3回して30分で帰宅。彼なりのポリシーが有るらしい。(笑)
女と女 2
マルヒは42歳。小柄で美人。中学生の娘と並ぶとまるで姉妹のようだ。依頼人の夫は学生時代ラグビーの選手だったというが、弁慶みたいな印象の大男だ。美女と野獣か。
依頼人は半年余り妻と会話しておらず、最近勤めに出たことも「娘から聞いた」らしい。したがって、都心の法律事務所というだけで詳しい事務所名や住所は分らないようだった。調査初日、まずマルヒの勤務先を特定するべく別居中のマンションから尾行を開始。マンションのゴミ捨て場にごみを出し、二人の子供と一緒に正面玄関から出てきた。途中、子供らと別れ京王線府中駅へ。7時50分の特急新宿行きに乗車。おりしも通勤ラッシュで小柄なマルヒは瞬く間に乗客の渦に巻き込まれて調査員の視界から消えてしまった。次の調布で下車せず、明大前でもホームにマルヒの姿は確認できなかった。大きな波が岸から海へ押し戻されるような、終点新宿駅の怒涛の中で遂に見失った。
新宿駅で下車したマルヒが、何処に向かったか神がかった占い師でも見当が付かないだろう。何しろ、新宿駅からは、山手線、総武線、中央線の上下、地下鉄丸の内線、大江戸線、都営新宿線、仮に都心に向かうとしても幾とおりの方法がある。仕切りなおすしかなかった。翌日、応援の調査員を加え、府中駅で待機していた調査員が車内のマルヒに寄り添う形で、丸の内線に乗り換えたマルヒを銀座まで追尾、千代田区有楽町のS総合法律事務所に出勤したことを確認した。
午後4時、S総合法律事務所が入居するビルの前で張り込みを開始する。5時05分、4箇所ある出入り口の一つからマルヒが現われた。案の上、朝入ったところとは別の出入り口だった。出勤の経路を逆戻る形で6時12分帰宅した。子供らはすでに帰宅していたようでエレベーターに留まっている調査員の耳に「ただいま~」と言って部屋に入るマルヒの声が聞こえた。
翌日も、その翌日もマルヒは仕事場から真っ直ぐにマンションに戻り、夜間家を出ることも無かった。(食材はどうするんだろう?)調査員の報告を聞きながら僕が質問すると、チーフの藤井が「宅配で取り寄せているんでしょう」と応える。成程、年寄りには思いつかない発想である。--------