女と女 4

探偵日記 7月22日月曜日晴れ

今日は1ヶ月毎の定期検査の日。お小水と採血をして、翌週診察を受ける。個人クリニックなので検査結果が上がるのに時間を要すが総合病院のように2~3時間待たされることが無いので僕みたいな短気な者にはいい。加えて、一応現役なので時間を測れるメリットもある。散歩をすませ少し横になって8時にシャワーをして駅前のTクリニックに赴く。
帰宅してから遅い朝食を摂って事務所へ。今日は朝から暑い。

女と女 4

勤務先や時々行くフィットネスクラブは分った。少し親しい男性もいるようだ。しかし、マルヒが頑なに離婚を求める理由としては少々軟弱であろう。平凡だが夫は経済力があり、見てくれも悪くない人物で、可愛い二人の子もある。近くに義母が住んでいるが関係が酷く悪いということもなさそうである。少なくとも子供らには優しく頼りになる(おばあちゃん)らしい。恋人関係でも同じだが、夫婦がズレ始めるとやっかいである。マルヒは何時の頃からか夫に対し強い嫌悪感を持つようになったという。「心当たりが無いんです」依頼人である夫は首をかしげる。僕が見る限りでも目の前の依頼人は極めつけの好人物に見える。まあ、家業を継いだわけではなく起業したのだから、それなりの個性や、人並み以上のバイタリティがあるのだろう。とはいっても、そのことを鼻にかけたり遊興に走り家庭を顧みないということもない。戦場で勇猛に働き家庭で妻子に癒されたい。部類の男に見えた。勿論、妻に対する愛情は十分すぎるほどあった。

では何故?倦怠?それとも夫には分らないところで、妻が愛想をつかせるような一面があったのか。それは、妻にとって、修復できないほど大きいもので、今更相手に言って改善を求める余地すらない事柄なのだろうか。依頼人夫婦はもう2年以上関係を絶っているという。それは、妻の一方的な拒絶による疎遠であるらしい。世間には稀にあるが、病弱な妻が夫の求めに応じられず、維新の橋下ではないが、「貴方申し訳ないけど風俗にでも行ってよ」と言って、生理的な処理を促すこともままあるらしい。或いは見て見ぬ振りをすることは多いだろう。しかし、本件のマルヒは、夫がそういうところを利用しない男だと百も承知で夫婦関係を拒んでいる。もしかしたら、やむにやまれず1回でもソ-プランドに行ったら離婚の理由にされかねない。依頼人は心底そう思っているようだった。

2月3日調査員から一報が入る「所長、今会いました」(この間の男か?)しかし、調査員はすぐに応えず口の中でもごもご言っている。「ええ、あの~今日は女なんです」僕は、な~だ女性と会ったって面白くもくそも無い。と思い。(で、何してるんだ)と聞くと、調査員は自分の説明が足りなかったと思ったようで、「ハイ、レストランで食事するようです。この間の男と」と言う。(ああそうか、じゃあ、三人か。その女性はマルヒの友達かなそれとも男の連れか)再び僕が質問をすると調査員は「いえ、三人じゃあなくて二人です。そみません、実は男だと思っていた相手がどうも女性らしいんです」

僕は絶句した。依頼人には(まだ関係の深さは分りませんが男と会いました)と、報告済みだ。依頼人も「やっぱりそうでしたか」とガッカリした反面、自分の妻に対する疑惑が正当なものだったことに安堵した様子が見えた。これは僕も頷ける。単に嫉妬からくる妄想ではなく、理性に裏付けられた疑いなのだ。と思えるし、今後の推移を(相手の責任)に沿って進められるからである。だけど、僕の報告が間違ってて、マルヒに「不倫」の事実が無いのであれば話しは違ってくる。或いは、単に女性の友人に送られたものを、さも意味深に(男と接触して、その男の車で送られました)と報告した僕に対し、徒に調査の続行を計ったのではないか。と思うかもしれない。いずれにしてもドジな話である。僕は、失意の中で、(ああそう、でもその後誰かと会うかもしれないから続けてくれ)と力なく言って、電話を切った。調査員ばかりを責められない。実際に僕も写真を見せられ(いい男だな)と思ったのだ。事務の高子に怒られた「所長は何でもかんでも早く報告しすぎですよ。もう少しはっきりしてからでも遅くないんでですから。」はいそのとおり、反省します。--------