女と女 5

探偵日記 7月23日火曜日晴れ

今朝はタイミング良く4時に目が覚めたので、タイちゃんを呼んで散歩に出た。昨日からなんだか元気が無い。今日ものたのたと歩き、何時も好んで歩くパールセンター商店街を半分ぐらい行ったところでUターンする。時間を見るとまだ30分ぐらいしか経っていない。(帰るの?)と聞くと足を踏ん張ってイヤイヤをする。かといって、何処に向かっていいのか迷っている風で、右往左往し、結局家のほうに向かって歩き始めた。昨日は食べなかったご飯を食べたので一安心する。
9時過ぎに家を出るが、中央線がトラブッてて遅れ10時に事務所着。

女と女 5

どうしたものかと思案しているうちに2月14日バレンタインデーの日になった。今日、明日とマルヒが勤務先を休む予定なので住まいのほうで張り込む。午後3時過ぎ、調査員から第一報が入る。「マルヒが出てきました。デパートの大きな紙袋を持って駅に向かっています。」と言う。次の電話でマルヒが京王線で八王子に向かっている。との報告が入る。その後、京王八王子で下車したマルヒはタクシーで、彼じゃあなかった、フイットネスクラブのインストラクターの女性が住むマンションに行きその部屋に入った。(なんだ、休みなので女友達の家に遊びに行ったのか)僕も調査員達もガッカリしたが、成り行きでそのまま調査を継続することにした。バレンタインデーは女性が恋人や親しい男性にチョコをプレゼントする日だとか、勿論僕も山のように貰う。しかし、マルヒは訪問したのは同性で、持参した紙袋はチョコレートにしては大きすぎる。何だろう?と考えている間もなくマルヒがマンションから出てきた。

マルヒに続いてくだんの女性も出てくると、駐車場に停めてあった車に乗って外出した。間一髪、府中から後追いで八王子に向かっていた尾行用車両が間に合い女性が運転する車両を尾行。午後5時50分、「中央高速八王子インターから入り新宿方面に向かって走行中」という連絡が入る。ついでに、調査員がぼやく。「女の運転とは思えません。凄いスピードで車線変更を繰り返しています」と。(尾行に気づいてるんじゃあないのか)僕が言うと、運転中のチーフの藤井に代わって「それは無いと思います」と言う。理由を聞くと、淺川橋の手前で一度見失ったが、18号線を左折したところで運よく追いつけたらしい。したがって、尾行車両に気づいていないと思う。というのが調査員らの主張であった。

永福町を過ぎ、初台で一般道に下りた二人の車は京王プラザホテルに入り、マルヒと彼女は、カフェ「樹林」で食事を摂り、午後8時、歌舞伎町のラブホテル「ペリエ」に入った。この日も女性は革のパンツに毛皮のブルゾンを纏いハットにサングラスという出で立ちだった。誰が見ても女性とは気づかない。愛し合っている普通の男女として。

報告を受けた僕は、ちょっぴりショックだったが(そうだったのか)と納得した。話には聞いているし、まだ駆け出しの頃、ある会社社長から愛人の素行調査を依頼されたことを思い出した。愛人の女性は銀座のクラブのママさんだったが、社長の来ない日に店のホステスを自宅に連れ込んでいた。社長に頼みベッドルームに録音機を隠し、その様子を録ったことがあった。あれから40年近く経って、思いがけず同様の経験をした。結局、調査員らは徹夜の張り込みとなって、翌朝8時、やっと開放された。

その後、相手女性の身元を詳しく調べ報告書を作成したが、顧問弁護士曰く「民法で定めるところでは、夫婦は、配偶者以外のものと性的行為を行ってはならない。としてあります。したがって、その奥さんは、例え相手が女性であっても不倫であり、相手と共に損害賠償を求められることになります」らしい。言い換えれば、夫が新宿二丁目のゲイとホテルに行っても十分離婚理由にされるということである。某日、事務所に来た依頼人に、報告書を渡しながらそんな法律の解釈を付け加えたが、依頼人は上の空で聞いていた。依頼人がどのような判断をして、どう決着をつけたか知る由も無いが、探偵の僕にも重い調査結果だった。------------