新宿犬鳴探偵事務所 7

探偵日記 1月20日月曜日晴れ

昨日は月例の阿佐ヶ谷ゴルフコンペ「サンサン会」5時20分に起きて、富ちゃんの車でコースへ。高速を下りるとうっすらと雪景色。(これじゃあクローズかな)と思って行って見ると(雪かきしているから1時間ぐらい待ってくれ)との由。キャンセルやコースに着てから引き返す人も居たようだが、こちとらはコンペであるし東京から遠路はるばる来たのだから帰るわけにも行かず、レストランで熱燗等飲みながら待つこと1時間半、やっとスタートできたが変則的なショットガン方式で4番ホールからインに入り、コースで用意したおにぎりをほうばりながらスルーでアウトの1番へ。何だか調子が狂った。僕は痛い肩をかばいながらのショットで、腰とか首が痛くなった。スコアも威張れるものではなかったが、賭けのほうは負けることなく無事終了。

今日も5時起きで千葉の外れまで車を飛ばす。10時過ぎに都内に戻って治療院へ。首から肩にかけて鈍痛が感じられたが針をさしてもらって多少楽になる。11時半事務所へ。


新宿犬鳴探偵事務所 7

C社の件では沢井が何度も警察に相談に行ったが、C社の所轄と殺害現場が異なることから沢井が相談した警察も、その殺人と花岡を結びつけることもなく、係員からの問い合わせもなかった。これが、松本清張の小説に出てくるような刑事ならば、関心以上の情熱を持ち関係者に当るに違いない。昨今の警察官はおしなべてサラリーマン化し、必要以上の仕事はしないように心がけているのだろう。そうして、事件が風化しかけた頃、犯人が自首する形で思わぬ解決を見た。犯人はまだ30歳半ばの個人経営者。やはりC社の取り込み詐欺に遭った業者の一人だった。しかも、数十億円にのぼる被害金額の中の極めて零細の被害者だった。その後の供述によれば、或る日突然やってきた花岡の求めに応じ500万円相当の蛍光灯を販売した電気工事会社の経営者だった。500万円とあなどるなかれ、彼にとって年末に予定していた入金がないということは、想像以上のアクシデントで、まさに死活問題だったようだ。

或る日の夜、女の住むマンションで待機していると、酔った花岡が機嫌良く帰ってきた。(花岡さん)と呼び止めて、何とか支払ってくれと懇願したという。しかし花岡は(自分は一介の営業員であり、文句があるのなら会社に言って欲しい)の一点張りだったようだ。そのうち、面倒臭くなった花岡が、(詐欺だかカラスだか知らないけど騙されたお前がバカなんだよ)と開き直った瞬間、持っていた出刃包丁で、一突きにして殺害したらしい。事件は大々的に報道され暫くはビクビクしながら暮らしていたが、所轄の高輪警察から(取引の状況を聞きたい)という問い合わせがあって、自分が疑われていると早とちりして出頭した。

その後、高輪署がC社の取り込み詐欺に関心を持った。という噂は聞かない。殺人という大きな事件が解決したことで満足し、立件が困難な詐欺事案を見送ったか。騙された人たちに運がないのか、はたまた、殺された花岡の運が尽きたのか。いずれにしてもこの世は不条理なことが多い。