新宿犬鳴探偵事務所パート2の1

探偵日記 01月10日金曜日晴れ

昨日はズル休みした。一昨日、二水会コンペで、埼玉県毛呂山のエーデルワイスに行き、帰りに床屋さんによって帰宅。車を車庫に入れてワインバー「木の蔵」へ。聖徳太子に良く似たマスターの伸ちゃんを相手にレッドアイを飲んだあとハイボールを3杯飲み、お通し、生ハムのサラダ、鳥のモモ肉の照り焼き、ピザ、を食べて帰る。22時ごろ就寝。ところが、夜中の1時頃目が覚めたら胸がムカムカし動悸も早い。何だか二日酔のような症状なので胃薬を飲んで再び寝ようと思ったら、急に吐き気をもよおしトイレに駆け込んだ。間一髪、猛烈な勢いで吐いてしまった。口の中が気持ち悪いので、歯を磨き水を飲んで再び寝ようとしたら、1時間後、今度はトイレに行く余裕もなく、(良くこんなに出るものだ)と思えるぐらい大量の水と一緒に訳のわからないものを吐き出した。それが数回続き、何とか収まった後ウトウト。何時ものように8時に朝ごはんの食卓に着いたが、梅干を半分とお味噌汁を一口飲んでベッドへ。あ~あ。

行きつけのクリニックへ電話して診察を受けることにして、午後1時半の予約をする。食中りとか、ノロウイルスとか、大変な症状を期待したが、ドクターは診察もしてくれず、看護士が熱と血圧を測り「じゃあ点滴をしましょう」といって個室へ入れられた。(あ、あのう原因は?)慌てて聞くと「疲れたのかな~、なんか疲れることした?」美人の看護師にじっと見つめられ、弱ってることもあって何も言い返せない。食中りなら下からも出るはずなんだけど、お熱もないから風でもないし。可愛い顔でまるで僕の奥さんのように心配した様子で独り言をいい、それでも、きっちりと痛い目に合わせて「じゃあ1時間ぐらい寝んねしててね」と言って部屋を出て行った。それから4,5回様子を見に来てくれて「変わったことありませんか」何て言いながら針を刺したほうのてをそっとさわって行く。何だ、病気も結構いいじゃん。

帰宅しておかゆを少し食べてベッドでゴロゴロ。夜もおかゆとバナナ1本食べて寝る。今朝は何時もと変わらぬ順序で支度をして事務所へ。


新宿犬鳴探偵事務所 1

9月に入ってもまだ真夏のような暑さの続く或る日。午前中で仕事を終え会社でぼんやりしていると、代表電話が鳴る。最近は、仕事の連絡もたいがい携帯電話で済み、固定電話が鳴るのは
営業の電話ぐらいだ。沢井は(またか、何の営業だろう)と思いながら受話器にてを伸ばした。沢井の会社は、主に家庭用の厨房機器を扱い、販売と修理を行っている。もともと父親が興したもので、一時は住宅ブームに乗ってかなりの収益を上げていたらしかったが、バブル崩壊後はジリ貧となって、10人近くいた従業員も全員辞めてしまった。最近は沢井一人で十分賄えている。それも、午前中で終わる有様で、しかも修理がほとんどである。社長の父親は多摩地区では有名な遊び人で、業績が右肩上がりの時は博打はするは、女は囲うはのやりたい放題だったが、ここ数年は大分大人しくなっていた。それでも、会社に近いマンションに住まわせている女性とは続いており、酒のほうもやまっていない。体調も悪いらしく、特に痴呆の気配を感じさせる言動をすることが多くなった。沢井は10年前、都内の私大を卒業したあと、大手のゼネコンに入社したが、母親に懇願され2年前、退社して父を補佐することになった。高校大学と、アルバイトをする時は父の会社だったので、業務の流れや実際の作業についても熟知していた。毎日酒びたりの父親は、これ幸いと会社に顔さえ出さなくなり、後を任された格好の沢井も、先細りの売上を眺めながらただ呆然とする毎日だった。

けだるい感じで電話に出ると、先方は「沢井工機さんでしょうか、私は、日本橋のC社の花岡と申します。実は、手前どもである総合病院の看護士寮の建設を請け負っておりまして、いいえ、建設会社ではありません。何と申しましょうか、土地の選定やら、業者のこと等総合的に任されている。と申せばいいのでしょうか、そんな訳で寮の各室に必要なトイレのウオーシュレットとかお台所用品を調達しなければならず、大変失礼かとは存じますが御社とお取引が出来ればと思いましてお電話した次第です。」やや、関西訛が感じられたその男は、丁寧に、しかも判り易く電話の趣旨を伝えてきた。勿論沢井もその総合病院の名前は良く知っていたし、ゼネコンに勤めていた関係から、総体的な費用を抑えるために、可能な範囲で自社で調達しようと考えることにも同感できた。しかし、一時は、(多摩の沢井)で名が通っていたが、(どうしてうちなの?)とも思った。すると先方も沢井の思いを察したか、「いやあ、TOTOさんとか色々ありますが、あちらは殿様商売で・・・それと、ある方から沢井さんの評判をお聞きしまして」等と言っている。是非一度お伺いしたい。と言うC社の花岡某と翌日の約束を交わし、何となく期待したい気持ちになった沢井は、最近始めたゴルフの練習にでも行こうか。という気になり会社を後にした。顧客からの電話は自分の携帯に転送されるようにしているので仕事に支障はない。ただ、そんな電話がくることもないのだが。-------