探偵物語 25

探偵日記 8月6日水曜日 晴れ

今日は12時に四谷で新しい依頼人と面談の予定。朝食を済ませて早々に事務所へ。マルヒは働きのある男性で、依頼人はその妻。良くある不倫調査だが、マルヒの夫はすでに家を出て、高級マンションで若い女性と暮らしているらしい。下調べをしてみると、マンションは1億5000万円で購入していた。同じ男として羨ましくもあり、半面気の毒にも思う。いっときの幸せや快楽を求めて、その人の人生に何が残るのだろうか。早晩、離婚調停とやらを申し立ててくる気配だが、そうは問屋が卸さない。このようなケースで申立人の主張が認められるのにはかなりの年月を要す。その間、二人の感情が変化しない保証はない。その都度、それまでの生活を切り捨ててゆく、つながりの無い人生は虚しさが残るだけだ。(自分さえ良ければ良い)探偵の僕は、自分自身の経験も踏まえ、その後、没落した人を沢山見てきた。女性は、心底愛してあげればこんな可愛いものはないが、裏切ったりすると鬼にも蛇にもなる。一度は愛した女性をそんな怖い人にして良いのか。他人事ながら自省を求む。

探偵物語 25

理事は辞めたが協会に必要とされるうちはお手伝いをしよう。と思っていたし、時の執行部が仲良しグループ達だったため秋葉原にあった事務局にはしょっちゅう顔を出した。当時、僕の会社の調査部長を、僕の傀儡として理事にしていたので、会の動きは良く分っていた。平成9年、伸び悩む協会を何とかしようと、執行部が考え、協会とは別に、協同組合を設立しようとして、当時の青島幸男東京都知事が認可し、「東京調査業協同組合」が発足した。この事が、毎日新聞のコラムに載ったため、協会内に設けた組合の電話が鳴りっぱなしになる現象が起きた。そこで、受件に結び付けようと、当番制でそうした電話を受け付ける策を講じた。組合(イコール協会)が希望者を募って、月曜日から金曜日まで一人ないし二人が協会事務局に詰めることになった。執行部では、調査や業界に詳しい僕にも加わってくれ。と言うので、二つ返事で引きうけ、毎週月曜日を担当することになった。

事務所は、調査部長や、しっかりした留守番の女性も居て、ほとんど何もしない僕にとって、1日だけでも(行き場所)が出来たことでメリハリも出来、月曜日になると嬉々として秋葉原に通ったものである。また、一応、当番の人が相談に乗って受件した案件は、その人の事務所が優先的に担当する決まりになっていたので、もし、月曜日に電話、或いは来所された依頼人は、その後、その人の事務所で責任を持って対応することになっていたので、事務所にとっても悪い話ではなかった。勿論、いきなり調査依頼を得るということではなく、他の探偵事務所の苦情も多く、特に月曜日はその特性から苦情の処理が大半であった。要するに、金曜日、或いは土曜日に夫の素行調査を依頼した主婦が、色んな苦情を寄せるのである。頼んだとおりやってくれなかった。お金を前払いしたが調査結果を教えてくれない。約束以上の料金を請求された。頼んだが、あまりにも高いのでキャンセルしようとしたけど連絡がつかず、やっと電話が通じたら高額なキャンセル料を請求された。などなど、依頼者は、自分の人生の岐路に立っている人ばかりで必死である。大概の人は、事務局までやって来た。------------