恋愛ごっこ 7

探偵日記 9月26日金曜日 晴れ

台風一過、昨日とうって変わった好天気。昨夜は早めに寝て睡眠を十分とったので、気持ち良く起きてすでに僕の部屋のドアの前で待機していたタイちゃんを連れて夜明け前の街に出る。1時間後の5時30分、まだ歩きたそうな彼に(ねえ早く帰ってご飯食べよう)と誘って帰宅。子供の頃は口のきれいな犬だったが、12歳の今は結構な食欲で、家に着くと用意されている茶碗に飛びつく。
朝食の後、シャワーをあびて10時に事務所へ。

恋愛ごっこ 7

演出家の妻だった夫人は、突然姿を消した恋人の不実に、一時的には錯乱し、失望したが決して怨んだりしなかった。夫との離婚はOと深い仲になった時から秘かに決めていたことで、(予定の行動)であった。夫人は、Oを愛し、また愛されたことで、一人の女性として自信が持てたし逞しくもなった。Oとの関係は希望するような形で成就しなかったが、自分がまだ人を愛せる。という発見をしたことで、第二の人生を切り開く踏ん切りもついた。実は、夫人は、夫とMの仲を早い時期から感じていた。ただ、たんなる演出家と劇団員の関係だろうと思うように努力していたに過ぎない。一定の期間夫婦として生活していたならば、相手の微妙な変化に気付かない人は居ない。ただ、夫人は利口に振舞っていただけなのだ。

こうしてOの申し出を承知して妻を誘惑させ、自分の手を一切煩わせることなく念願の離婚と、Mとの再婚を果たした演出家だったが、その後の生活が順風漫歩に行ったかどうか判らない。一方、折角、演出家の期待に応え、大役にありつけるはずだったOは、その後も劇団に戻ることなく杳として行方知れずになった。

現在我が国で噂される「別れさせ屋」の存在がどのようなものか判らないが、小手先の芝居で人の心まで変えることは出来ないし、仮に、首尾よく運んでも関わった者達の心の瑕疵になるだろう。何でも有りの世の中だが、せめて「恋」だけは姑息な計算抜きでありたいと思う。----------(了)