探偵日記

探偵日記 10月22日水曜日 雨

朝4時20分、散歩に出るとまだ雨は降っていない。タイちゃんも喜んで元気に歩き、およそ1時間で帰宅。大の出方が少ないな~って思っていたら、夜中に部屋でしたらしい。犬も人間と同じ生理的要求は時と場所を選ばないようだ。今日は事務の高ちゃんがお休みなので、朝食を済ませて早々に支度をして事務所へ。

娼婦 2

佳枝も少女の頃から淫乱だったわけでもないだろうが、最初の結婚が破綻した頃から体が無性に男を欲しがった。寿司職人と別れる直前、やはり同業の若い男と関係が出来て、暫くは同棲していたが、男が熱海のホテルに勤務することが決まって、佳枝も一緒に移動したが、そこで正式に婚姻した。慣れない土地ながらものめずらしさも有って、数ヶ月は蜜月の日々を楽しんだが、退屈になり、夫に、(実家の母が体調を崩したのでちょっとお見舞いに行きたい)と嘘を言い東京に舞い戻った。熱海から新幹線に乗る際、(もうここには帰らないだろう)と思ったというから、何日たっても帰ってこない妻を待つ夫はたまらない。やがて、夫の元に内容証明が届き、開けてみると「離婚届」の用紙に加え、代理人と称す弁護士から、離婚に承知しないなら裁判にします。と、半ば脅迫めいた文書が添えられていた。職人気質で世事に疎かった夫は、裁判という文言に恐怖を覚え、誰にも相談しないまま署名して弁護士事務所へ送付したという。その時の夫は、2年後、世田谷区内の寿司屋で働いている時、その店の主人に気に入られ、地主でもある主人の一人娘の婿になっている。(人間万事塞翁が馬)の諺のとおり、尻軽女に棄てられた男性は思わぬ幸運に恵まれたことになる。

佳枝は当時まだ24歳。それでいて、すでに数十人の男性遍歴が有ったというから恐るべき女性と言わざるを得ない。時はバブルの真っ最中、夜な夜な六本木や銀座に出掛け、特に当時絶盛期を迎えたディスコに入り浸り男を物色した。IT関連の若い社長や不動産屋の社長など、手当たり次第に関係し、「ジュリアナ」では、(させ子)という渾名で噂される有様だった。後年、佳枝は娼婦仲間に対し、(私は、サントリーの社長に可愛がられ世界一周旅行をさせてもらった。)とか、(西武の堤さんの女だったこともある。銀座のホテルを借り切ってくれた。)などとほらを吹いていたらしい。事実、当時の佳枝はブランド物のバッグや靴を数多く持っていたから、そういう嘘話を周囲は信じたようだ。しかし、三十路を過ぎ、以前ほど男達も寄り付かなくなった頃、佳枝に夢中になって、遊び歩く佳枝のアッシー君を嬉々として買って出るサラリーマンが現われた。----------