探偵日記 11月21日金曜日 晴れ
今年のヌーボーは比較的美味しかった。日本でもそうだが今年は果実が豊作で、特に柿なんか甘味が強いぐらいだ。ぶどうも同様なのだろう。ボジョレー地方も出来の良いぶどうが採れたらしい。というわけで、苦手なワインだったが4杯もお代わりをした。一つには、(元を取ってやろう)という貧乏根性が強く働いたのだと思う。良い機嫌で、何時ものように、天国に一番近いスナック「ほろよい」に繰り出し、午後11時過ぎに帰宅。今朝は4時に目覚め、タイちゃんを連れて散歩に行き、10時半事務所へ。
今日も幸ちゃんの話。6年前、預かり家に引き取られ、里親を探してもらうことになった幸は、(どうせここでも酷い仕打ちを受けるのだろう)と覚悟していた。おためごかしに、幸ちゃんなんて猫なで声で頭をなでようとするが、終いには硬いもので殴られたり、足蹴にされるんだろう。と、思って何時も用心していた。ただ、(お散歩)とか言って、外に出してくれるのは大いに歓迎した。一人で生きている頃は、ひもじい思いをすることもあったが、自由に遊べたし、ちょっといい男(犬)に出会うとスキンシップも出来た。それは、きっと私が美人だから。と思ったかどうか判らないが、怖い叔父さんに捕まるまでは本当に楽しかった。
車に乗せられてここに来て、やがて1ヶ月が経ち、半年を過ぎたが、この家の人たちはますます私を大事にしてくれる。特にお母さんの作ってくれるご飯は、今まで経験したことがないくらい美味しかった。いやいや安心するのはまだ早い。用心にこしたことはない。
そうして一年が経ち、幸も何となく気が緩み(怖い)という感情はなくなった。じゃあどうすればいいんだろう?根っからの放浪者の幸は、人間に甘える学習をしていなかった。頭をなでられると気持ちはいいのだが(ありがとう)という、今のこの気持ちを伝える方法を知らない。だから、体をこわばらせて逃げようとしたりした。お母さんは、朝早く出て行って夕方帰ってくる。帰ってくると必ず私の名前を呼んで、何だかんだと話しかけてくる。他のちっちゃい人たちも同じようにしてくれるが、私が、あんまり愛想無いものだから、もう頭をなでてくれなくなって淋しくなることもあった。
最近食欲がない。あんなに好きだったお散歩も少し億劫になったし、何より足が言う事を聞かない。お手ては自由に動かせるんだけどちゃんと立てなくなった。頭も、いつも朦朧として、どういうわけか生まれてきた頃の夢をよく見る。お父さんのことは覚えていないが、お母さんは優しかった。寒い時は体全部で抱っこして寝てくれたし、時々、ビックリするくらい美味しい物を食べさせてくれた。この家に来てからも一年に一回ぐらい食べたけど(お肉)って言うらしい。そのお母さんとも別れ、楽しいことや怖いことが沢山あったけど、もしかしたら、今の生活は仲間が言ってた(しあわせ)ってことかも知れない。そうだ、明日は思いっきりお母さんに甘えてみよう。でもあれっ何だか変だな~体が動かなくなっちゃった。お母さんは「幸ちゃん私が帰ってくるまで頑張っててね」って言ってたけど、まだ帰ってこない。お母さん寒くなっちゃったよ~。あ、帰ってきた。な~んだひかちゃんか。でもいいや、お母さんが帰ってくるまで寝てよう。ーーーーーーーーー