探偵日記

探偵日記 11月20日木曜日 曇り

昨日は阿佐ヶ谷の仲間(といってもみな僕より年上で、お金持ちの先輩)と懇親ゴルフ。埼玉県毛呂山町にあるエーデルワイスという、メチャクチャグリーンが速くパットの難しいコースに行く。
スコアはそれなりで和気藹々とプレー出来た。夜は、それぞれの見張り番(妻)を伴って、阿佐ヶ谷駅前のフレンチ、ルなんとかという店で懇談。多いに飲み食いして午後8時半解散。ビール、ワイン、焼酎(特にわがままを言って置いてもらった。)チャンポンしたので少々酔って、真っ直ぐ帰宅。見張り番曰く「明日もボジョレーで沢山飲まなきゃあいけないから」だそうだ。

今朝は寒かった。4時にタイちゃんに起こされ外に出る。元気に歩く彼を見て、一日に一回散歩して、美味しいご飯を食べる(ドックフードは常備してある)束の間の幸せを感じ、あとは家人の帰るのをひたすら待つだけの一生。人間の慰みのため勝手に飼われ、場合によっては棄てられてしまう。そういえば、栃木県の河川に72匹もの犬が死んでいた。というニュースを見た。沢山繁殖させたが目算が外れて飼育にお金がかかるので、処分する専門の業者に依頼したらしい。なんとも腹立たしいニュースである。(金のためなら何でも有り)の世の中、といっても、こんな可愛い生き物を良く殺せるものだと思う。

昨夜、知人の飼っている犬が亡くなったと聞かされた。名前は「幸」(ゆきちゃん、メス)僕の娘と同じ呼び名ということもあって、気にかけていた。幸は、千葉県の動物愛護センターに保護され(預かり人)知人に預けられた。里親が見つかれば本当の飼い主としてそのお宅に引き取られ、晴れて家族の一員になる。センターには、野犬狩りなどで確保され、一定期間を経て殺処分されるまえに救い出された犬や猫が沢山居る。しかし、その数倍が救い出されず処分されるらしい。知人は、数年前、幸を預かったがあんまり可愛いので家族の一員にした。幸は、知人の家に来る前、相当過酷な境遇だったようで(人間不信)に陥って、とうとう誰にも心を開くことなく逝ってしまった。と、僕が勝手に思っている。

夏の終わり頃からめっきり衰え、(もう、お散歩に行っても歩けない)ようになり、食欲も無くなって次第に痩せてきたが、(生きたい)という思いは強かったようで、家人の不在中気力を振り絞って立ち上がろうとし、そのため、体を家具に当てたり、床ずれしたりで、あちこちに傷を負ったらしい。体を触られるころを極端に嫌った幸だが、家人に抱っこされてご飯を食べるようになった。知人やその家族の可愛がりぶりは尋常ではなく、ここ数ヶ月は、幸中心の生活だったとか。

一昨日の夜、数時間おきに痙攣するようになり、知人は(もうそろそろかな)と思っていた。翌朝、仕事に出掛ける際、(帰ってくるまで頑張ってね)と言って出かけたという。じりじりしながら午後5時を迎え、さあ帰ろう。という時に娘さんから電話がかかって、(動かない)という報告を受け、急いで帰って名前を呼んで抱き上げてみたが、体温はあるが、まるで布団を抱えているごとく物体感が無かったらしい。急いでかかりつけの医院に連れて行き死亡が宣告された。不在中の長男は知らせを聞いて電話口で泣き、初めて幸が来た時、怖がって泣いた娘さんは号泣した。

我が家にも犬一匹と猫三匹がいた。先代の犬はキャバリアで、名前を「ロン」と名付けた。娘は「カイザー」がいいんじゃない。と言ったが、マージャン好きの僕が「ロン」と呼ぶと、嬉しそうに反応したのでその名前に決まった。しかし、(キャバリア10年)と言われるように、目や心臓が弱く、ロンも生後一年で白内障になり、やがて緑内障になる懸念が出て、武蔵境にある日大病院で手術したりしたが、8年ちょっとで亡くなった。性格の良い本当に可愛い犬だった。散歩命で食いしん坊だったのに、だんだん食欲がなくなり、散歩も、外に出たがるくせに、いざ出て行っても歩けなくなり、数日後、眠るように死んだ。僕は、外にいてその知らせを聞いたが泣いたりしなかった。三匹居たネコも、長女のくつした、長男のてぶくろ、が相次いで亡くなったが涙を流すこともなかった。と、考えると、僕は冷血人間かもしれない。でもなぜか、このブログを書きながら涙が止まらない。------------

娼婦 15

何時ものホテルに行き、フロントに部屋番号を告げる。エレベーターで部屋の階に上がり、指定された部屋のチャイムを鳴らす。音もせずドアが開き、部屋に入ってドアを閉めた途端、佳枝はあっと言ったきり立ちすくんだ。客も声を失って呆然としている。今日、北海道に出張のはずの彼が目の前にいる。動転した佳枝が(ごめんなさい。部屋を間違えました)と言って、ドアを開けようとした時、彼が「まあ、慌てて帰る事もないでしょうゆっくりお話しましょう」と言って引き止めた。

後悔先に立たず。中学生の時だったか、佳枝は、先生に教えられた言葉を反芻した。元、同僚のしのちゃんに誘われて退屈しのぎに戻った元の職場。退屈しのぎなんてものじゃあなかった。佳枝は、自分の体は少し変じゃあないかと思うぐらい男を求めた。高級ホテルで暮らし、何不自由ない日々を送っているのに、一人の相手では物足りず、日替わりで新鮮な感覚を欲する。佳枝は、自分は根っからの好き者で、この商売が一番性にあっていることを痛感した。それでも、彼の前ではしおらしくかたをすぼめだんまりを決め込んだ。重苦しいひと時が過ぎ、やっと彼が口を開いた。彼のほうも、佳枝という愛人が有りながらこんな所に来てしまった照れくささがあるのだろう。佳枝を悪しざまに罵ることはせず、「結局こういうことなんだね」と、意味不明な言葉を発した。これに対し、佳枝は何をどう言って良いか分らず俯いたままでいた。

そんなことがあって、彼との仲は急激に冷めていった。彼のほうも佳枝に食傷気味だったようで、いい口実になったらしく、「今まで本当に楽しかった。またどこかでお会いするかもしれないので、ここはきれいに別れましょう」と言われ、佳枝のほうも、泣いて縋る演技も出来なかった。ただ、(あ~あ失敗したな)と思う程度だった。

そうしたことがあった数週間前、新宿の探偵事務所に一本の電話がかかった。若い男性の声で、「調査費用は振り込みますから私と会わないでやってもらえますか」と言う。探偵は、(構いませんが、どんな調査ですか)と応じる。男性は、あるホテルの名前を言って、「明日朝10時、ホテルの正面玄関から出てくる女性を尾行してほしいんです。ええ、分ります。特徴がありますし、服装や持っているバッグもお教えしますから」と言った。約束どおり、間もなく費用の全額が振り込まれ、探偵は翌日の調査を実施した。当日の夕方、依頼人の男性から電話がかかり、探偵は結果を報告した。それから数日後、再び男性から電話がかかり、「本日から一週間毎日やって下さい」と言って、前回同様、探偵が告げた費用の全額を振り込んできた。振込み人は(木村琢也)ふざけてやがる。探偵はそう思ったが決して悪い客ではない。ただ、探偵業法では禁じられている受件方法であった。しかし、そんなことを言っていられない。探偵と会いたくない依頼人は沢山いる。断れば他の探偵事務所に行くだろう。

もうベテラン域に達していた探偵は、依頼人のことはおぼろげながら分っていた。何のことはない。マルヒを尾行してホテルの部屋番号も突き止めてある、宿泊客はひとかどの人物だった。自分の愛人の行動に不審を抱き依頼した結果、とんでもない実態が明らかとなったわけで、おそらく報告の内容を利用して、大怪我しないで別れるんだろう。という事も察していた。
その後、佳枝が鶯谷の方で働いていることを噂で聞いた。--------------------