探偵日記

探偵日記 8月27日木曜日 晴れ

朝5時、散歩に出ると雨は降ってなかったが、路面は濡れていた。勇んで出たタイちゃんだったが、歩きが鈍い。それでもすることはすませて、20分ほどで帰宅。もう少し歩こうよ。と言って、方向を示して促してみたがノー。という態度で家に向った。1時間ほど休んでジムへ。マシンとプールで時間半やって朝ごはんの待つ我が家へ。昨日伊勢丹で買ったぎんだらの粕漬けで美味しく頂く。10時半事務所へ。

れんげ 35

 ひかるは数年前、ポーランドを旅した時、あの、アウシュビッツを訪れた。ナチスが、主にユダヤ人を六百万人とも八百万人とも言われる人たちを虐殺した館である。捕らえられた何も罪の無い人々は狭い部屋に閉じ込められ、その部屋でガスによって殺されたという。旅行会社のキャッチフレーズは、世界遺産になった美しい街。というものだったが、ツアーの行程にアウシュビッツの見学も入っていた。
 動物愛護センターはここを真似たのだろうか。センターはガスの代わりに酸欠にして死亡させるというが、ともに、人間のする行いではない。と、ひかるは思っている。れんげを見ると余程疲れたのだろうか、ひかるのひざもとで寝息を立てている。そんなれんげを色んな思いで見つめた。二十年前、(愛してる。君とひと時も離れて居たくない)確かそんな歯の浮くようなセリフで結婚を申し込まれ、まだ少し早いんじゃあないの。と言う母親の言葉に耳を貸さず一緒に暮らし始め、二人の子に恵まれた。夫は、真面目で欲のない人だった。出世はともかく、もっと給料のいい勤務先もあったのに、少ない収入でも満足していた。ひかるにも優しく、子煩悩でいい父親だったと思っていたが、浮気が発覚して出て行くときは、鬼のような形相でひかるの不実を言い募り、返す言葉で相手の素晴らしさを披瀝した。真面目が故になせる業なのだろうか、これから棄てようとする妻に対し、(君は、僕に、もっとお金を稼いできてくれと、毎日毎日、金かねかねって、責めた)と。言葉汚く罵った。「子供のことはどう考えているの」という、ひかるの問いに、(養育費は法律で決められた範囲で払う。彼女も協力は惜しまないといっている。)ひかるは思った。相手の人がどんなに素敵な女性か判らないけど、そこまで言われることはない。二人で働けば暮らしに困ることはない。確かに、(もっと給料のいいとこってないかしら)ぐらいは言ったかもしれないが、だからといって責めたことは無い。元夫に未練はない。ただ、こんな静かな時間の中に居るとつい余計なことを考えてしまう。こどもたちはいずれ社会に出てそれぞれの人生を歩いてゆくだろう。結婚をして子供を持ち、日々の暮らしに追われ母親のことは二の次、三の次になるだろう。自分もそうだったように。
     れんげの寝息が大きくなった。ーーーーーーーーーーーーーーーーーー