探偵日記 10月26日水曜日 晴れ
「負の連鎖」と言う言葉をよく聞く。まさにその通りだと思う。悪いことは続くもので、事務所の不調に加え僕個人のバイオリズムも大きく低下しているような気がする。そんな矢先の今週月曜日、小社の顧問弁護士が急死した。事務所に居て、「さあこれから裁判所に行ってくる」と言って椅子から立ち上がった途端、胸を押さえてうずくまりそのまま亡くなったらしい。享年75歳。知らせを受けて事務所に駆け付けたが、すでにご遺体は所轄署に移動していた。(変死扱いで翌日検死し、事件性があれば解剖に回されるとの由)署に赴き会いたい。と言ったが、「親族でなければダメ」と断られる。30年前、当時の顧問弁護士が病死し、その先生の友人だった先生に、以後面倒を見ていただいた。正義感が強くおちゃめなところのある好人物だった。平成6年、僕が(七人の奇妙な依頼人第4話ヘッドハンティング)で書いた事件で、逮捕されたのちに弁護してもらったこともあった。100パーセント被害者と称す人物の嘘を承知の上で「福田君、相手は上場会社の重役だよ。裁判所が探偵の君のいうこととどっちを信じる?」と言われた先生の言葉を今でも覚えている。昨年、銀座で食事をして行きつけのバーでエッと驚くぐらい上手い歌を聞いたのが最後の思い出となった。(合掌)
家出した息子の消息を知りたい。と念じている両親は、僕が「探偵」と名乗るとほとんどの人が会ってくれた。面談した人は(わらにもすがる)思いだったのだろう。僕はじっくり話を聞き、良かったら任せてもらえないか。と言うと「お願いします」と言う。その後、「ところで費用はいかほどでしょうか」と聞かれた僕は、(いいえ1円も要りません。その代り、息子さんを見つけたら成功報酬を頂きたい)と応じた。その頃から、僕は家出人(すなわち所在調査)の場合、着手金は要求しない。探し出して、対面させてから報酬を頂く。ことにしている。ところが、それでは気のすまない。のが人情である。ましてや、生きているのか死んでいるのかわからない最愛の子供を見つけて欲しいのである。「だって交通費もかかるでしょうし、最初からただっていうわけにはいきません」といって、封筒を寄越す。勿論領収書なんか持っていないから書かない。その日から、事務所の仕事が終わると内偵を行い、親しいと思われる友人を尾行してみる。かなりの確率で成功した。或る時、都内でホテルをたくさん経営している韓国人のお父さんから「娘を探してくれ。もし1週間で探し出したら100万円やる」と言われ、2日目に彼氏の家に居るところを発見した。思えば当時の僕の月給が4万円の頃だった。そのことを若い人に言うと(またじじいがほらを吹いてる)という顔で笑う。最近の若者は上品で欲が無い。-----------