探偵日記 05月16日水曜日 晴れ
昨日は本当に疲れた。前日に続き別の意味で限界を感じた。調査員の不足で僕も現場に出たのだが、マルヒの女性が会社を出てから走りづめで、駅の階段を駆け上がり走り、うっかりすると電車に乗り遅れそうになる。終わってみると10000歩あるいている。しかもその半分は走ったわけだから74歳の老体には少々酷であったらしい。おまけに暑かったので、29歳の調査員も大汗をかいていた。今日もまだ疲労は取れずぼんやりしている。
それでも今日は来客があるので事務所に来て、探偵日記を書いている。
調査のあれこれ
調査には「動」と「静」があり、昨日の調査はまさに動で終始行動して終わった。このような調査では、1本電車に乗り遅れたら修復不可能となる。例え何時間張り込んだ挙句でも徒労に終わる。1円にもならないわけで調査員も必至である。マルヒは若いせいか敏捷で、或る駅で閉まりかけた電車に飛び乗ろうとした。寸前で扉が閉まって難を免れたこともあった。一方、静の調査は「内偵」で、俗にいう聞き込み主体の調査となり、その時々の時間制限も無い。しかし、時と場所及びタイミングもあって、それなりの困難さはある。僕のような年寄りでも可能で、むしろある程度人生経験を積んだ者の方が得てかもしれない。
前回、途中で終わってしまったが、「所在調査」は、事情によっては動と静を合わせたものとなる。或る日、依頼人の会社から数億円を騙し取って逃げている男の調査が入った。僕の事務所では比較的得意とする調査で、数日で居所が掴めた。銀座に近いウイクリーマンションの1室であったが、依頼人に引き渡そうとマンション前で待機していたらマルヒが出てきて、危険を察知したマルヒが逃走を図った。調査員全員でこれを追う。若い調査員に混じって僕も居た。自慢ではないが結局マルヒを取り押さえたのは僕だった。もうずいぶん昔の思い出である。------