探偵日記 01月17日木曜日 晴
今日は久しぶりに事務所に一番乗り、9時半に着いた。阿佐ヶ谷駅前から、多分区営だろう「すぎまる」というバスに乗り3つ目の区役所前で地下鉄丸ノ内線に乗り換え新宿御苑前で下車。外に出るとすぐ目の前が溝呂木第二ビル。余計に見ても30分以上はかからない。ビルは先日来外壁の工事をしている。始動が早いと1日が長い。今日はいろいろと事務処理をするつもりだ。
こうして一人で事務所にいると昔のことを思い出す。かって、探偵事務所の営業がNTTの職業別電話帳(今はタウンページという)の広告に依存していた時代、事務所の電話にしがみついていた。まさに、(電話命)だった。「もしもし、探偵事務所さんでしょうか」儚げなご婦人の声が受話器を通して聞こえる。(ハイそうです)と応じて調査依頼の交渉が開始され、時間と場所が決まり面談の約束が成立すればほぼ受件につながった。自慢ではないが依頼人の信頼を得る術には自信がある。と言っても、嘘八百を言ったり出来もしないことを吹聴するわけでもなく、依頼を強要することもない。ただひたすら相手の言うことを良く聞いて、その人が納得して「ではお願いします」と言い出すのを待つ。若い探偵は仕事欲しさから、やや強引に契約を急ぐきらいがあるが、僕の経験では、無理して受けた仕事は後で苦労することが多い。そうはいっても決して鷹揚に構え、(頼まれるからやってあげる)というのではない。依頼人の意思を尊重し、探偵の僕と信頼関係が確立されてから受任する。というのである。
僕は昔、協同組合で経営する「探偵学校」で講師をしたことがある。基本的には組合の理事たちが就任したのだが、それぞれ得手不得手があって担当する科目を決めた。僕はスタートが興信所の調査員だったからほぼ調査全般を経験し、おおよそのことは可能だったが、敢えて「受件と報告」を受け持った。受件とはすなわち前述のようなことで、探偵業の「肝」にあたる。そうして、調査活動を終え、いざ報告ということになるが、ここも肝心なところで、円満に精算してもらえるかどうかも、この報告と報告書(いわば探偵業の商品)の出来栄えに左右する。・・・・・