探偵日記 01月14日火曜日 晴
昨日は朝食の後、バスと電車を乗り継いでゴルフの練習に行った。新しく仕入れたユーティリティの9番打ってみた。少々ミスをしても120ヤードぐらい飛ぶ。練習場の人に言わせれば10ヤード足してくださいと言う。ということは130ヤード飛ぶことになる。快心あたりだと150ぐらいか。19日のコンペ「サンサン会」が楽しみである。
新宿・犬鳴探偵事務所 14
奥さん、おっしゃるように確かに不便は感じています。だけど僕の仕事は収入が安定しません。そりゃあ、1年が終わってみればほどほどの売り上げ出来ているし、ならせばなんとかかっこうはついています。だけど、僕は奥さんになのもお返しするものがありません。「ばかねえ、だから言ってるじゃアない私は何も要求しないって。ワンちゃんって案外気が小さいのね」「まあ、私はワンちゃんのそんなところが好きなんだけど」と言って笑う。
その時、探偵のくせに、バブルという実感はなかった。しかし、日本はまさにバブルの真っ最中だった。だから、仮に、新宿で30坪の事務所を借りようとすれば巣千万円はかかるだろう。犬鳴は再び目の前に座ってニコニコ笑ってお酒を飲んでいる井口夫人をみて、っ彼女がどのくらいの出資を考えているのか不安になった。もし、今犬鳴が1憶円と言ったら何と言うだろうか。勿論駆け引きする気なんか毛頭ないし、この話が、単なる話で終わっても、ここまで言ってくれる依頼人はめったにいるものじゃあない。夫人は、仕事の面で僕を信頼してくれているし、一人の人間として、普通以上の好意を抱いてくれている。
犬鳴は話題を変えてこんなことを言ってみた。(おくさん、恥をさらすようですが、僕の父親は終戦直後朝鮮から引き揚げてきたんだけど、満州にも縁があって、日本軍の隠匿物資を処分してかなりのお金を持ち帰ったのに、悪友の口車に乗って全部パーになったらしいんです。少しでも残しておいて新宿の西口に1000坪も買っておいてくれれば、僕も探偵をしていなかったかもしれません)などと自嘲気味に話した。終戦直後、新円切り替えの風説が流布され戸惑った人が大勢いた。父もそんな一人で、(紙くずになるなら使っちゃえ)とばかりに、京都の高級料亭に1年居続け、持ち金の全てを使い果たし、結局それが原因で僕の母親と離婚したらしい。・・・・