探偵日記 01月15日水曜日 曇り
昨日は何だか無為に過ごしたような気がする。午前中1件すませて新宿に行き、お昼は伊勢丹7階で蕎麦を食べた。夜、知人の送別会を催し21時過ぎに帰宅。
でも、今年初めて仕事らしい案件が入りホッとする。明日から調査員は名古屋行。もしかしたら僕も行かなくちゃあならないかもしれない。
このように、何となくしまらない日もあるし、わけもなく充実感を味あえる日もある。最近思うことだが、何をやっても(面白くない)と感じるのは老年の鬱だろうか。
新宿・犬鳴探偵事務所 15
その後しきりに、とにかく下戸のくせして無類の女好きだった父の、悪口とも回顧ともつかない感じで、笑い話のように話し夫人の感想も待ってみた。すると、井口夫人は「そうよねえ、ワンちゃん、昔、西口の今ちょうど都庁のあるあたりを角筈って言ってた頃大きな浄水場があったの知ってる?」「私の父があそこらあたりを買い占めててね、最近地上げ屋さんがやいのやいのって言ってくるから煩くて仕方ないのよ」さらに、「ああそうだ、どうしても断れない筋から頼まれて少しだけ売ることにしたんだけど、ワンちゃんそのお金を使う」と言う。角筈は古い地名で、現在、その場所は新宿西口公園になり、住居表示は西新宿に丁目。その公園の角にある交番の斜め前の500坪をデベロッパーに売るという。当時、坪800慢円は下らなかったので、売買価格400億円。仮に税金を差し引いても夫人の手元に半分の200億円は残る。そして、それを使えと言う。犬鳴は内心仰天したが、最近はそういう大きな話は嫌というほど聞いている。身近なところでも規模こそ違うが友人が所有するマンションが購入価格の5倍で売れたらしい。最初、不動産業者から「売ってくれませんか」と、購入価格を聞いた友人は、「からかわれてるのかと思ったよ」と述懐していたことを思い出した。犬鳴は、もしかしたらこのおばさんちょっと変なのかな。なんて思ったが、(いえ、そんな大きなお金は必要ありません1億円もあればおつりが来ます)と言い、(ところで奥さんのほうで事務所の場種の希望はありますか、いらっしゃるのに便利なところがいいでしょう)と言うと「ううん、私は何処でもいいわよ。どうせ小田急線で新宿に来るんだから、でもまあ、駅に近いほうがワンちゃん的にもいいんじゃあない」
この日のこんなやり取りで、犬鳴探偵事務所の移転は決まった。・・・・