探偵日記


2020年08月25日火曜日 晴




朝夕の風は初秋を感じさせた。長雨の次は猛暑、それといつ終わるか分からないコロナ禍。人類はこうした気まぐれな自然の移ろいと、時にもたらす災害、疫病、に苦しめられてきた。幸い今のところアメリカと中国のように小競り合いはあるが、大きな戦争は無い。しかし、今回のコロナで「探偵」を廃業する者も出てくるのではないか。などと考えていたら東京都調査業協会からメールが来た。今協会は会員数も激減しているらしく、運営も難しいのだろう。(かって最も多い頃は130社)くらい加盟していたように記憶するが、その記憶も薄れるくらいはるか昔のことになった。メールの内容は、当番員制度のことらしい。僕も10年以上前、週一回月曜日に協会事務局に詰めたことがある。今回は希望者が晴れて当番になれたら80万円を割り勘で払え。というものである。そんな余裕のある探偵っているのかな?それともそんな価値があるんだろうか?




新宿・犬鳴探偵事務所




犬鳴探偵事務所は西新宿の雑居ビルにある。昭和54年、再スタートだ。まず神田で創業したあと高田の馬場に移り、色んな意味で仕切りなおしたのである。興信所の調査員でこの世界に入り、10年以上経った。年も35歳。探偵としてはまだ少し経験不足で若いが勢いだけはあった。その前の年、先輩に勧められ初めてNTTの職業別電話帳(のちのタウンページ)に小さな広告を打った。たしか1パージの4分の1、名刺を横に2枚並べたくらいの大きさだったが、これが功を奏した。事務所に泊まり込むような生活を続け、電話にしがみついていた。何しろ(電話命)で、一本の電話から何が生まれるか分からない。元同僚で最近独立したYという男は、最初にかかってきた電話の依頼人から1000万円集金したという。事務所の家賃が月5万円の頃だから、今の貨幣価値に直せば5000万円であろう。




それまでの犬鳴は、事務所はあるもののその存在は世間に認知されていなかった。まあ、当時、帝國興信所(今の帝國データバンク)に勤務していた叔父が時々紹介してくれる会社を顧客に細々と凌ぎ、その他は、以前勤めていた調査会社や探偵事務所から回ってくる案件がほとんどだった。それでも犬鳴が探偵をやめず(この仕事は俺に向いているし、何より金になると思っていた)今日までやってきたのは、思った通り(性に合っていた)のと、時々、びっくりするぐらい大きな事件に遭遇したからだろう。多少の危険はあり難しいが報酬とともに達成感も味わえる。ーーー