探偵日記


2020年08月26日水曜日 晴




何時ものようなパタ~ンで10時新宿着。改札を抜け人ごみにふれるとやっと安心する。最近は、あれほど嫌っていたマスクをするようになった。まあ、電車やエレベーターぐらいはしょうがないか。と思うからだ。正義感ぶった誰かに注意され、かっとなって喧嘩するのも大人げない。明日はゴルフで早いから悪さはせずまっすぐ帰宅するつもりであるが、昨日問い合わせのあった依頼人と面談になればそうもいかない。コロナは一向に収まらないが、ぽつぽつと仕事が入るようになった。




新宿・犬鳴探偵事務所




新しい事務所はJR新宿駅に近いビルで、200室以上の会社とも言えない事業所が雑居していた。中には(ああ、こいつは筋者だな)と思うような人相の男も出入りし、決して快適ばかりではなかったが、或いは、他に人たちも犬鳴を見て(胡散臭い奴)と思ったかもしれずおあいこだ。当時は探偵事務所を訪れる依頼人は少なかった。たいていは、自宅に呼びつけるか駅近の喫茶店で待ち合わせすることが多かった。ただ、稀にやってくる依頼人もいたので、室内は探偵事務所らしくそれなりに整備していた。




或る日の午後、その珍しい依頼人が現れた。といってもいきなりやって来たのではなく、少し前に、恐る恐るといった感じの電話がかかった。やや関西訛りの中年女性の声で「あの~、そちらは探偵事務所さんでしょうか」と聞く。(そうですが)短く犬鳴が答えると「お願いしたいことがあってこれからお伺いしたいのですが、看板が出ていますか」と聞いてくる。当時、興信所や一般の調査会社はともかく、犬鳴のような個人事務所はあからさまに事務所名は出していなかった。とっさに、犬鳴は、看板も出していないような会社じゃあダメなのかな。と思ったが、意外にも依頼人は「ああ良かった」と言った。怪訝に思ったがとりあえず来るようで、「今、私そちら様の近くに居ますのですぐに参ります」と言い、本当に数分でやって来た。---