温泉芸者 5

探偵日記 6月7日金曜日晴れ

体調は回復しつつあるようだが、バイオリズムが低下したままのような気がする。ツキがないというかやることなすこと上手くいかない。神社にでも行ってお祓いしてもらいたくなった。周囲にも(何だか落ち込んでいるみたい)と思われる有様で、ますます憂鬱になる。昨日の麻雀もそうだった。わざわざ余計な牌を切って、親のはねマンを振り込みダントツのトップからドンケツに陥落。麻雀の場合、棒牌(ミスをする意味)をすると以後ツキを失う。逆についている時は何をしても上手くいく。これはあぶないかな~と思って切った牌が通って上がりにつながったりする。結論は、(だから麻雀は面白い)
今朝は4時に目が覚めたので、タイちゃんを呼んで散歩に出る。ところが彼はまだ寝ぼけてて、なかなか大をしない。30分ぐらい経ってからやっとエンジンがかかったようで、1時間過ぎたので(タイちゃんもう帰ろう、ご飯を食べよう)といっても帰りたがらない。まったく気ままなワン公だ。

温泉芸者 5

そんな洒落た言いように子ぶたはぐっときた。ハンサムで背も高く、何より経済力がありそうだ。それをひけらかさないところも魅力を感じた。次に呼ばれたとき、子ぶたのほうは最初からその気で座敷の赴き、梅奴と踊る上方舞にも熱が入った。子ぶたパパこと先生はそんな二人をとろんとした目で眺めている。(落ちた)子ぶたは確信し、座敷がはねた後、お酒が飲みたい。と言うと、先生も阿吽の呼吸で二つ返事で承諾した。しかし、晴れて一夜をともにしたもののそっちのほうはいまいちだった。マンションを買ってくれた弁護士もそうだったが、一般に、先生と呼ばれる人種は淡白なのかな~と思った子ぶただったが、一方の先生は子ぶたの体に執着した。論文の執筆がある。などと理由をもうけ、長いときは1ヶ月近く逗留し夜毎子ぶたを呼んで遊んだらしい。

男の気持ちも不思議な面を持ち合わせているようで、梅奴とこっそり情を通じていた件の会社社長が子ぶたと先生の噂を聞いて嫉妬した。社長にしてみれば、(俺の女)とばかり思っていた芸者が、他の客と懇ろになったことが信じられず、梅奴との関係は、それはそれとして、子ぶたとの関係を復活させた。一方の子ぶたも、元々、節度のないところに、かって、乱れに乱れた社長のことも忘れられずに居たので、またたくまに焼けぼっくいに火がついた。このことに真っ先に気づいたのが梅奴で、たちまち温泉中に知れ渡ったが、先生だけは子ぶたを疑うことなく数年が過ぎた。

以来、子ぶたを中心に、弁護士、会社社長、先生、この他、数人の男が取り巻き、田舎の温泉町のセンセーショナルな話題を提供、何と、二十数年もの長きにわたり語り伝えられることとなった。そういう面に於いては、子ぶたは、(やり手の芸者)として周囲から一目置かれ、かっては、やれ尻軽女だとか、金亡者、などと批判されたが、間もなく芸者組合の理事に就任、やがて、長年、頂点に君臨している(花椿)という芸者と理事長の座を争うまでに成長した。

やがてバブルが崩壊し、子ぶたの客も一人減り二人減りして行ったが、会社社長と先生との関係は継続された。この頃になると、先生も東京の会社社長の存在を知ったが、向こうが先だと聞かされ、暗黙の了解を強いられた。ただ、一方の会社社長は、当時、子ぶたから(あの先生はインポだから体の関係はないのよ)と言いくるめられ、その後も、子ぶたの演出にすっかり騙された形で、先生の存在や人物像を知らないまま、記憶の端にも残らなかった。子ぶたは、ウイークディしか会えない会社社長と平日の数日を過ごし、金曜日の夜から月曜日の朝までを先生と過ごす、二重生活を続けた。ーーーーーーーーーーーーーーー