自分勝手 2

探偵日記 8月28日水曜日晴れ

今日も甲府行きはならず、10時前事務所へ着く。朝夕はめっきり涼しくなって秋虫の声が姦しい。ただ日中はまだまだ暑く、昨日の午後から再び真夏日のような気候に戻った。今夏、熱中症で病院に搬送された人は35000人以上、無くなった人も300人以上というから文字通り「酷暑」だったようだ。そんな中、70歳の僕は7,8月10回以上ゴルフをした。一般的に言えば「元気」ということになろうが、両親に感謝するべきか、それとも幼少時を過ごした山口県の海や山にすべきか、正解は後者だろうと思う。食糧事情が劣悪で、白いお米やお肉、卵、甘味、など、成長するための食物は事欠いたが豊富な魚介類や、お芋、大根、ほうれん草、などで、基本的な体力は十分付いたはずで、特に、骨はしっかりしていると思う。これまでずいぶん転んだり打ったりしたが骨折等の大事には至らなかった。先日も、ゴルフの最中、OBになったボールを崖下まで拾いに行き傾斜で転び、したたか腰を打った上に、枯れた木の枝で腕を傷つけた。2週間経った今でも15センチにわたって傷跡があるぐらいだから、若い人なら病院行きかもしれないが、僕は、次のホールに有ったトイレの水道で水をかけて血を止め、以来、軟膏もつけずに回復させた。
また、僕のゴルフ仲間に歯科医が二人いるが、彼らはきっと僕のことが嫌いじゃあないかと思う。何故ならば、歯の丈夫な僕は何時まで経っても彼らの患者にならないからだ。(笑)
とは言っても、寄る年並みには勝てず確実の劣れへゆくパーツもある。日々の生活の中で、それを認めざるを得ない時などしみじみと淋しさを感じてしまう。(あと10歳若かったら。)人は何時でもそんな愚痴ともつかないことを言いながら老いてゆくのだろう。

自分勝手 2

藤井はN大を卒業後、現在の会社に採用されたが、大学での成績は決して良いとはいえず教授の覚えも悪かった。ギリギリ卒業にはこぎつけたものの在学中はバイトに精を出し、それで得たお金は全て女友達との遊興に消費した。実家の父親もサラリーマンだったので、大きな援助は望めず学生専門の消費者金融の世話になることも日常茶飯事で、玲子と結婚する時、玲子の貯金で清算したりした。彼が入社した当時の勤務先は、バブル崩壊後で、ネット業界も草創期だった。ところが、数年後、現在の楽天や、平野岳史氏率いるフルキャストなどが台頭し、やがて、ホリエモンのライブドアの最盛期を迎え、これに便乗した勤務先も右肩上がりに業績を伸ばした。社員も入社時30人足らずだったのが500人を抱するまでに拡大。たいして能力の無い藤井も管理職となり、一営業部門を任されるに至った。しかし、私生活のほうは子供が生まれた頃よりすっかり真面目になって、たまに、自宅のある駅前のパチンコ店に立ち寄って帰るぐらいで、学生時代のような徹夜麻雀や休日ごとの競馬場通いは治まっていた。玲子との結婚や、マイホームを得たことが彼の不良性を修正したかに思えたのだが、持って生まれた性格は容易に変わらなかった。

秋元康枝は物足りない思いで日々暮らしていた。8年前、合コンで知り合った夫と流れに任せて結婚したが、すぐに妊娠。男児を出産した頃から夫の様子がおかしくなった。富山県の素封家の長男として生まれた夫、秋元優は、実家の潤沢な資産を背景に高校時代から遊興三昧の生活を謳歌していた。やはりお金にものを言わせ東京のK大に入学。都会の生活が不摂生に拍車をかけ、その頃、流行り言葉になっていたヒルズ族の仲間入りをして、時には怪しげなパーティにも加わった。出身地の隣のI県の国会議員の息子やタレントのO等と、危ない薬にも手を出していた。康枝はそんな時、やはり大学時代の友人に誘われその日催されたパーティに参加して秋元と会ったのだ。康枝26歳の時、某大手デパートの化粧品売り場に勤務していたが、一般の店員ではなく、メーカーから特別に派遣されてのことだった。身長こそ160センチそこそこだが見事なプロポーションと女優顔負けの美貌で、アプローチしてくる男性はゴマンといたが、どういうわけかどの男性にも関心が湧かなかった。だからといって、秋元に特別な感情を持ったわけではない。一方の秋元も、可愛い女の子や美しい女性は見飽きていたから康枝に特別食指が動いたわけではなかった。ただ、康枝を囲んで誘惑している他の男性に競争心を煽られたに過ぎない。

幼少時より欲しいものは何でも手に入れなければ気がすまない。資産家のバカ息子に良く見られるタイプの男。まさに秋元がその類で、その日から猛烈なアタックを展開した。丸顔で背も低く、とっちゃん坊やみたいな秋元は、康枝の好みの真逆の男性だった。それなのに結婚して出産した。結論から言うと秋元のプレゼント攻撃に負けたのである。ブランドものの洋服やバッグは当たり前、康枝の誕生日に、前々から用意してあったBMWの新車を勤務先の玄関で渡され勝負がついた。同僚の見ている前でのことである。ちょっぴり優越感も覚えたが、それよりも追い詰められた感のほうが強かった。多少やけになり(まあいいか)そんな程度の思いで抱かれ、その日の行為で妊娠してしまった。-----------