昨日より20分早く事務所に着く。事務のたかちゃんが来ている。彼女は今、社労士になるため猛勉強中。わが子に比べよそ様の子達は偉い。それもこれもみんな親である僕のせいか？
なんて考えていたら現場の調査員から報告の電話が入った。張り込み現場の地形上3日目にして、住民が注意し始めたと言う。僕の若いころと違って、一般の人たちの危機意識が高く車両を停めて張り込んでいるとすぐにパトカーがやってくる。警察は我々の主管であるので、身分証明を見せれば了解してくれるのだが、その事実を通報者にそのまま通報者に伝えるわけにはいかないので、警察官もご苦労だと思う。大分前の話だがこんなことがった。文京区の駒込警察の管内でのこと、マルヒの女性が自宅アパートに愛人を連れ込んだ。探偵社としては、さんざん調査した挙句のいわばラストチャンスが訪れたわけで、とにかくその男性がマルヒの部屋を出てくる写真を撮って、その後を尾行し、身元の確認をしなければ成らない。
翌日になった。午前10時、現場の調査員に電話をすると「まだ出てこない」という。僕は「もうそろそろだから必ず写真を撮ること、男性の勤務先か、自宅を押さえるよう」指示した。それから30分ぐらい経った頃、チーフの大石から電話が入った。うまくいったのかなと思って出ると情けない声で、「警察が来て署に連れて行くって言ってるんです」と言う。なんと、十数人の警察官がやって来て、調査員二人を連行すると言う。僕は「ちょっと責任者に代われ」と言って、責任者らしき警官と話しをした。探偵社の協会（社団法人日本調査業協会）の届出番号や、案件の内容を話し、数週間かかってやっと終了する場面であること、代わりの調査員と交代させるのであと1時間待って欲しい、と頼んだが、聞く耳持たぬ。という感じで二人は連行されてしまった。一巻の終わりである。
僕は、とりあえず交代の調査員を現場に向かわせ、協会の会長に連絡を取って、自らも駒込警察に向かった。要するに、金網で囲っただけの、誰でも自由に出入り出来る駐車場でカメラを構えていた調査員に不審を感じた近隣住民が通報したらしい。僕の事務所では、張込が深夜に及ぶような場合、管内の直近の交番に事前に断っておくことにしている。そうすれば、通報があっても大事には至らない。今回も勿論手配は済んでいた。しかるに、である。問答無用で連行された。警察に着くと生活安全課の責任者が応対してくれ、「申し訳ない」と陳謝された。当然であろう。夜ならともかく、日中のことである。駐車場に車を停めている人達以外に誰でも自由に出入りしているし、それを禁止する広告もない。近所の子供向けに「危ないので遊ばないよう」注意する紙が貼っているだけの駐車場である。
「不法侵入」（軽犯罪）容疑で書類送検するという。調査員には「逮捕歴」も付く。まだ若かった僕は、署内に響き渡る大声で怒鳴りまくった。十数人やって来た警察官は「公安」であった。僕は仲の良い警察官は沢山いるし、退職者を採用したこともある。主管である以上対立するわけにはいかない。しかし、警察が我々の生活を守ってくれる。と思ったら大間違いである。ただ、調査員は連行され、交代の調査員が現場に着いた時には愛人の男性は女性宅を出た後だったらしい。しかし、チーフの大石は、女性宅の出入りを捕捉出来る場所に「ビデオ」をセットしておいたらしい。愛人が出てくる姿や時間がばっちり撮れていた。不幸中の幸いであった。