探偵日記 10月28日火曜日 晴れ
ユニクロの長袖のTシャツにゴルフ用のブレーカーを着て出たが寒く感じた。しかし、毛皮をまとっている犬のタイちゃんは元気一杯に飛び出し、何時もとは違う方角に歩き始めた。途中、何故か興奮して僕を引っぱるので、他の犬がいるのかなと思ってついてゆくと、数百メートル先の、とある一軒の住宅の窓を眺め(あれ、おかしいな)という素振り、実は以前の散歩の時、この家の前を通ると決まって外にいるタイちゃんを威嚇する二匹の犬がいた。たしかプードルだったと思うが、1階の窓際が彼らの部屋になっていたらしく、タイちゃんも気配を感じて必ず近寄っては吠えられていた。ところが今日はシーンとして物音一つ聞こえない。確かここに来たのは1年以上前だから最近亡くなったのだろう。ガッカリしたタイちゃんはとぼとぼ歩いて、1時間後帰宅した。
昨夜は休肝日にしたので朝の目覚めは快適だった。朝食の後、すぐに仕度をして事務所へ。
娼婦 4
2歳の時から塾に通わせやっと入った小学校で、何事も無ければ大学まで行ける。塾の時はそんなことはなかったが、小学校ではママ友が大勢できた。父兄参観などのイベントも多く、その都度着てゆく服も代えていかねばならないし、終わると決まって(どこかでお茶しましょう)ということになり、その延長でランチも一緒にする。佳枝から見る他のお母さん達はみなセレブで、ランチも一人4~5千円するような店を選び、どうかするとワインを飲んだりする。月に一度ぐらいなら何とかなるが、週に一度そんな集まりが有って、その他の日でも何のかのと誘われ、見栄っ張りの佳枝は断れない。2年後、二男も同じ学校に入ったので、必然的に外出も増え出費も嵩んでくる。最初のうちは夫に泣きついて工面してもらっていたが、安サラリーマンの夫のこと、とうとう「お前がどうしてもって言うからあそこに入れたけど、今からでも遅くない公立に転入させろ」と言い出し、夫の両親もそれに賛成した。
そうした頃、M家の裏手にサラ金の自動契約店が出来た。昼間はとても入る気になれないが、夜間、そっと覗いて見ると無人で、何だか銀行のキャッシュスペンサーみたいな機械が見えた。恐る恐る入ると、(いらっしゃいませ)という音声の後、操作の順序を教えてくれる。実は佳枝はここに来るため変装をしていた。帽子にメガネをかけただけだが、暗い夜のこと道ですれ違った近所のご主人も気付かなかった。度胸を決めて音声に従って操作したら、何と30万円の現金が手に入った。夫の勤務する会社が良いのと、夫の父親ながら持ち家だったのが信用されたようだ。明日は学園祭で夫と共に行く予定になっていて、終わったら何時もの仲間とパーティをして、その後、カラオケスナックに繰り出すことになっている。子供達は夫が連れて帰ってくれる。だからどうしてもその費用が必要だった。
借りた30万円は毎月2万円づつ返済したが、あるとき金融会社から佳枝の携帯に連絡が入り、「優良顧客のために特別なサービス期間が設けられ、100万円まで枠が出来た」と言ってきた。前回借りた30万円はあっという間に無くなり、思案していた時だったので、まさに渡りに船とはこういうことだろう。今度は、まだサラリーマンが出勤する前の早朝に行って、返済して余裕のある金額を足して85万円を引き出した。借りた金でも手元に大金が有れば気も大きくなる。その日から暫く佳枝は頗る機嫌よく過ごした。--------------