探偵日記

探偵日記 11月10日月曜日 晴れ

昨日は雨を覚悟して月例に臨んだが曇りのままで終えた。ただ、前の夜少々飲みすぎて体調がすぐれず午前中は最悪だった。パットの名手(自分で言うのも変だが)が1グリップのパットをはずし、以後、寄らず入らずで48。午後、気を取り直して41。それでも3打差届かず4位に終わった。

今日は7日に検査した結果を聞きに駅前のつのだクリニックへ。10月、休肝日を多く取ったことが幸いして、すべての数値は良化していた。これからも最低週一日はアルコールを抜くよう頑張ろう。11時過ぎに事務所へ。

娼婦 9

この人は本当に慣れていないんだなぁ~。少々おかしくなったがチップもくれたし上客になる予感もあって、佳枝は(よ~しひと頑張りしよう)という気になった。若い頃から、老若合わせて経験豊富な佳枝は、そのほうでも絶大な自信を持っていた。今の夫もふざけていっぺん相手をしてやったら佳枝の虜になった。しかし、客が手を出してこないんだから自分のほうから積極的に動くことは無い。暫くは何か話でもして客がその気になるのを待とう。等と考えていたら客の男性が「貴女はこのお仕事長いんですか?」と聞いてきた。そらきた。佳枝は、この人は少々の嘘も通じるだろう。と、たかをくくり、(まだ3日目です)ことさらしおらしく応え、恥ずかしそうに客の胸に顔を埋めひしとしがみついてみせた。客は、そうですか、世の中には色んな事情を抱えている人がいるんですね。というような意味のことを口の中でボソボソ言っている。佳枝は(お客さんは良くいらっしゃるんですか)と、分りきった質問をしてみた。すると、案の上「いえいえ、僕は今日が初めてです。実は、東京には仕事で出張したんですが、ちょっと長くなりそうで、何だかもやもやしてしまい、妻もいるんですが」と、いかにも留守宅の妻に申し訳ない風情でそんなことを言った。

その後、女の子が一人いること、妻とは仲違いしていることなど話し始めた。佳枝も(私も男の子が二人いるんです)と、正直に言い、夫は真面目なサラリーマンだが、この不況のあおりを食いリストラに遭って今は無職であること、子供の塾の月謝にこと欠く有様で、思い切ってこのアルバイトを始めたが続けられそうにない。ことなど、装飾して語った。もう今のアルバイトを始めて3年以上になる佳枝だが、一貫して、経験の浅い人妻を演じていた。また、芸者だった祖母に仕込まれた話術は達者で、佳枝自身、一定の自己評価をしていた。か細い声で身の不憫を話す女性に男は弱いこと、特に、この客のように、こうした世界を知らないだろう人には効果はてきめんであることも充分承知した上でのテクニックだった。

やがて、最初に約束した3時間が経ち、佳枝がもぞもぞしたら客も察して、「あ、もう時間ですね。でも僕はもう少し貴方と一緒に居たいなぁ」というので(じゃあ延長なさいますか)と言うと、「出来ればそうしていただきたい。あとおいくら払えば可能ですか」と、いかにも真面目な人らしく四角四面な言い方で、早くもかけてある背広のほうに行こうとする。佳枝は、まずクラブの男性に電話を入れ、(お客様がもう少しゆっくりしたいとおっしゃっていますが、どうしましょうか)と、お伺いを立てた。電話の向こうで責任者の男性が意味ありげに含み笑いをしたあと、(十分判っているくせに)という意味で、「よしなに」なんて冗談半分で応じる。しかし、こうしたやり取りでさえ客の男性は新鮮に感じたか、電話が終わると「すみません語無理を言って」などと言い恐縮している。

そのあと、形ばかり本来の(こと)を済ませ、2時間後にホテルを出た。客は、佳枝の勤務時間を詳しく聞き、「またお会いして頂けますか」と念を押す。佳枝は吹き出しそうになるのを必死で堪え、客の目をじっと見つめ、今にも泣き出すのではないかというぐらい目を潤ませて(私も貴方に会いたい)ポツリと言って別れた。----------