探偵日記

探偵日記 3月3日火曜日 曇り

今日はお雛さま、女性のお祭りの日。我が家にも女性が二人居るが(我関せず)で話題にも上らない。今朝、携帯の目覚ましで5時に目が覚めたがぐずぐずしているうちに、家人が行ってくれたらしくタイちゃんのお散歩は免除された。「明日の朝は必ずやってくださいよ」と言うキツイおっ達し。ハイハイ承知しました。ということで、早々に家を出て事務所へ。

昨日は急遽山梨県の甲府に行くことになり、午後2時のスーパーあずさに乗って現地へ。ご依頼人と会って報告を済ませたあと、旧知の元同業者のT氏と会い、甲府の繁華街で食事をした。今回の仕事もその知人が「僕はもう登録を返したので、そちらでやってくれませんか」と言って紹介してくれたもので、食事の後、本当の依頼人が経営するクラブに行く。T氏は、地元の名士だったが、十数年前、僕が主催する(日本調査アカデミー)に入学を希望された人である。当時は、生徒も集まらず開店休業状態だったので、通信教育を選択してもらい、卒業後甲府市で開業された。根が超真面目な人で、すぐに日本調査業協会に加盟。やがて、北関東の会長にも推薦されてなった。しかし、折からの不況と大病もされて廃業を決心したらしい。今は、奥様とあちこちに小旅行を楽しむ悠々自適の毎日だとか、羨ましい限りである。
ただ、久しぶりに甲府の町を散策して驚いた。目抜き通りや繁華街の中心地でさえ人が少なく閑散としていた。政治では地方と都会の格差を無くそうと声高に言っているが、果たしてどうなるか。

新宿・犬鳴探偵事務所 7-2

 平成3年5月、故郷の山口県豊浦町(現、下関市豊浦町)に新築中の家が完成した。それとは別に、GWを利用して、細君の故郷で挙式をするという社員の招きで、まず、山口県とは真逆の青森に行くことになった。振り返るとこの頃が犬鳴の絶頂期だったように思う。4月27日、弁護士主催のゴルフコンペに参加するため、早朝東京を出発。まず茨城県のコースでプレーして、そのまま福島県に入り、郡山市内のホテルに一泊。翌日、青森に向かい八甲田で待っている悪友と合流。八甲田カントリーで二日間プレーし、翌日、弘前市で宿泊。前夜、弘前城址の見事な桜を見て感動する。翌5月3日憲法記念日に黒石市で行われた結婚披露宴に出席した。新郎が勤務する会社の社長が、わざわざ遠い東京から来てくれたというので、祝辞を述べてくれという。それも、主賓の市会議員より先に指名された。もう、当時何をしゃべったか忘れたが、非常に緊張したことを覚えている。

 式が終わりその足で秋田へ。市内のビジネスホテルで一泊、夜は、地酒の高清水できりたんぽを食べる。翌朝、日本海を見ながら南下、その日は、石川県の山中温泉に泊まり、次の日はただひたすら走り、天橋立、琵琶湖、鳥取砂丘、出雲大社などを巡り、山口県を目前にしたところで力尽き、松江のホテルに救助される。翌5月6日、10日間のロングドライブの終着地である故郷に入り、聳え立つ崖の上に完成した家を引き渡された。村人達は(灯台みたいな家)と言いながら、いつ崖から転落するのかと興味津々だったようだ。
とにかくじっとしていられない犬鳴は、(そうだ、この家に常備する食器を買わねば)と思い立ち、佐賀県有田市に赴き有田焼のお茶碗等を購入。数日後、東京に向けて、再び長距離ドライブ。合計四千キロ以上、本州を一回りして無事帰京した。その翌日、実に半月以上ぶりに出社。犬鳴探偵事務所は所長の犬鳴が不在でも十分稼動していたが、井口夫人はそうはいかない「ワンちゃん私をほったらかしにして何処に行ってたの」と、恨み言を言われる。勿論、井口夫人も本気で怒っているわけではない。(ご飯でも食べよう)犬鳴が誘うと嬉々としてついて来た。

 前にも書いたが、故郷に向かう長距離ドライブの最中、ちょうど金沢の羽咋近くの海岸を走っている時、犬鳴探偵事務所のメインバンクM銀行の当座係から電話が入り、入金待ち(依頼人の会社から受け取った手形を期日まで銀行に預けること。資金繰りの関係で早く資金化したい場合は、その手形を担保にして、貸し付けてもらうこともある)の手形が不渡りになったという知らせを受けていた。犬鳴自身は、この電話がバブル崩壊のプロローグとなった。あれだけ隆盛を誇った犬鳴探偵事務所も閑古鳥が鳴くような状況に陥り、事務所の電話もバッタリ鳴らなくなった。翌平成四年、一時期、4、5千万円あった売り上げが数百万円となり、毎月1千万円以上の赤字が続いた。バブルの頃は、御用達みたいになって毎日のように顔を出し、手を出せば、(よっしゃよっしゃ)と、田中角栄さんのように損失補填をしてくれていた地上げの会社も当然ながら資金ショートし、あっけなく倒産してしまった。

 井口夫人は「ワンちゃん大変な時は遠慮しないで言ってよ」と言ってくれていたが、田舎者で、良く言えば昔気質の犬鳴は、井口夫人にだけは一切泣き言を言わなかった。実は、犬鳴探偵事務所では、景気の良い時(ハッピー預金)と称して、隠し預金をしていた。ほうっておくと犬鳴が全部歌舞伎町のオシッコにしてしまうお金である。犬鳴に内緒で経理担当者の竹内紀代(犬鳴の実姉)がこっそり隠していたらしい。まあ、探偵事務所の経理なんて良い加減で、もう時効だから言うが、税務署も正確には把握できない。或る時、所轄の税務署から担当者が来て、犬鳴さん、経費はいいですから入りの部分を教えてくれませんかと言う。一般に、探偵事務所に調査を依頼して、領収書をくれという依頼人は滅多に居なかった。犬鳴が(いやいや、領収書をお持ちになってください)と言っても、「いえ結構です」と言う人が多い。税務署もなかなかで、目の付け所が違うなあ。と感心したが、犬鳴は言ってやった(構いませんけど、お宅の署長さんの名前が出てもいいんですか)と。担当者は渋い顔で帰っていった。ーーーーーーーーーーーーーーー