探偵日記

探偵日記 7月15日水曜日 晴れ

雨は大嫌いだが、こう暑いと陽射しも前期高齢者の僕にはこたえる。今週日曜日のコンペ(サンサン会)を棄権しようかと言い出す人も出てきた。今朝はどういうわけかタイちゃんのお目覚めが遅く5時40分に外に出る。家に帰ってくる頃にはすでに25度を越えていたようだ。少し眠くとも明日は早く散歩しよう。事務の高ちゃんがお休みなので9時半に事務所着。午後は涼しい所で外国語の勉強をするつもり。

れんげ 9

 数日すると、誰の目にもその犬の腹が目立ってきて、子を宿していることは明らかとなった。やや動きも緩慢となって、ご飯を食べた後、藤代夫婦の手の届く所で横になることが多くなった。手で触れさえしなければ、近づいても逃げるようなこともなくなり、妻の手から食べ物を口に入れてもらうまで気心を許しあった。一般に、犬は多産という。その犬のお腹に何匹の赤ちゃんが宿っているのか分らないが、何時生まれるのか、お産が無事に終われば良いが、藤代夫婦は人知れず気をもんでその日を待った。
 八重垣神社の裏手から県道号線に出ると量販店があり、その後方に生方製材所の広い敷地が見える。経営者の遠縁当る生方聡は、地元の高校を卒業後、この生方製材所に入り三十年ほどになるが、バブルの頃の目の回るような繁忙期には、泊りがけで仕事に精を出したが、最近では材木を搬入するトラックもたまさかにしか来ない有様である。
 したがって、今では責任者の立場にある聡もこれといってやる事の無い日が多く、付近をうろつく野良犬の餌付けが楽しみの一つとなった。元来、小動物を愛でる性質だが、特に犬好きで、家でも近所で生まれた子犬を貰って飼っている。野良の犬達もそんな聡には無警戒で接近し、聡のくれるものを食べた後もいっとき遊んで帰って行く。こうした犬達の中で、聡が特に目をかけている犬が居た。猫ではないが、身づくろいが良いというか何時も小奇麗で、野良の雰囲気とはちょっと異なる何か品の良ささえ感じた。聡のあてがう少ない食料を、他の犬と争って奪い合うようなこともせず、自分の番が来るのを大人しく待っているようなところがあった。聡がその犬を最初に見たのは、もう半年以上になろうか。他の犬の群れから離れて、かといって、必要以上に喧嘩をするでもない。始めて聡と目が合ったときも、警戒するふうでもなく聡をじっと見つめ、見つめられた聡のほうが気持ちのやり場をなくした。その時、聡は、なんて透明感のある目をする犬だろう。と、思った。ーーーーーーーーー