探偵日記 7月14日火曜日 晴れ
久しぶりの事務所。金曜日、新幹線のぞみで小倉まで行き、在来線で2駅引き返し下関で下車。駅前の東急インにチェックインする。この日、学会があるとかで市内のホテルは一杯。数日前、予約の電話を入れるとスイートで良いかと言われ承知すると1泊9,000円との由。普通4,000円ほどで泊れるビジネスホテルだから破格といえるが、まあ仕方ない。(笑)その夜はお忍びで豊前田のクラブJへ。翌日、9時に同級生が迎えに来てくれてゴルフ場へ。ゴルフが終わって近くの一の俣温泉で「七夕同窓会」に出席する。その夜は宴会会場となった観光ホテル泊。55年ぶりに会う者もいて大いに盛り上がった。
翌12日は京都へ。京都ホテルに一泊して福田家の菩提寺を探すも見つからず帰京。午後7時、カルチャースクール「作家道場」で、五十嵐貴久先生の講義を聞き帰宅。ああ疲れた。今朝は、4時半、待ち構えていたようにタイちゃんに起こされ散歩。そのあとジムに行き1時間半汗を流す。
れんげ 8
妻が、おとうさんあのワンちゃん身ごもっているよ。と言うと、へ~そうかね~俺にはちっとも分んねえけどな。と言いながら、しげしげと見直している。五人の子をもうけた妻には、あの犬の下腹がせり出している様や、乳のふくらみで彼女の妊娠を確信した。あくる日も、そのまた翌日もその犬はやってきて、夫婦があげるおにぎりや、時に、甘いもの等を嬉しそうに食べる日々が続いた。そのうち、犬のほうも気を許したのかすぐそばまでやってきて、食べ終わってもすぐに走り去ったりせず、夫婦が畑に入ると、夫婦から見える位置で遊んだり、日向ぼっこをするようになった。ただ、あまりの可愛さに体を触ろうとすると、素早い動作で体をかわし、頭もなでさせるようなことはなかった。それでも藤代夫婦にとって、畑仕事に出る唯一の楽しみとなって、雨の日も食べ物だけは何時もの場所においてくるのが習慣になってしまった。
その犬は、柴犬に似た中型犬で、光の加減で薄いベージュに見えることも有るが、普段は白に近い毛色で、獰猛さは感じられず、野良にしては涼しげな目をしている。或る時、夫が、昔は人に飼われていたんじゃあないか。と言ったが、妻も、もしかしたらそうなのかな。と思うことも有った。というのも、隣町にゴミの処理場があり、どういう理由か、ゴミならぬ犬を棄てに来る不埒な輩が後を絶たず、そのことが噂となって広がり、他県からも棄てにくるものが現われるようになっていた。それらの犬達は、自力で逃げ出し、やがて野犬になって生き延びるものもいるが、大半は県の愛護センターに捕獲され、殺処分となった。この白い犬がどういう生い立ちか分る由もないが、そんな背景が有るからそのように考えたのであろう。
藤代夫婦には三男二女があるが、嫁を取って同居する長男のほかはみな、それぞれ世帯を持ち別居していた。また、かなりの田畑を所有しているものの、勤め人の長男は農業を嫌がり、嫁も看護士として県立病院に勤務しているので、畑仕事はもっぱら夫婦の役目だが、年とともに体がついてこず、大半は休耕地となっていた。昨今、電力不足を補うとして、この地区にもソーラ業者が入って、藤代家の土地も貸し出していた。
そんな事情で、夫婦の畑仕事は余暇の一つみたいなもので、生まれつき働き者の夫と、町内会の集まりや催しなど、人が大勢集まる場所を苦手とする妻の、ほとんどお遊びのようなものだった。そして二人は、あの野良犬をまるで孫のように可愛く思い、最近では、夫婦の会話の大半がその犬の話になるほどだった。特に妻は大層入れ込んでおり、最近では、夫が、なんだ俺のご飯より美味しそうだな。と、苦笑いするほど気持ちが入ったものを用意する有様だった。ーーーーーーー