探偵日記

探偵日記 9月18日金曜日 雨

相次ぐ地震と火山の噴火。加えて局地的豪雨などなど、地球の気候が怪しい。もし、星である地球に年齢があるとすれば、そろそろ更年期に入っているのだろうか。僕の後輩で、宇宙や天文が専門の元東大の教授がいるが、彼はどう思っているのか、今度の村人会であったら聞いてみよう。ついでに書くが、僕の育った過疎の村は寂れつつあるが、出身者はひとかどの人物が多く、彼をはじめ学者や経済界の重鎮も多く排出している。ただ、これらの人達の多くは山側(すなわち農家の子弟)の者で、僕のように海側(漁師のワンパク)の者は、おっちょこちょいが多く世の中で大成した例は非常に少ない。恩師もそのことは認めていて、「まあ、学業成績は芳しくなかったが面白い子が多かった」と、述懐していた。人はみな、成長過程の環境で少なからず異なるようで、(氏より育ち)とは良く言ったものである。

れんげ 51

 犬同士より人間の方が気を揉んで、しかし、そういう様子の二匹に声をかけるのも憚られるのかみな沈黙している。(本当に良く似た親子だ)毛の色、耳の形、涼しげな目元。どこをとって見ても子犬はれんげそっくりである。もしこれが人間の親子であれば、子犬はれんげに飛びついて甘え、れんげは感極まって滂沱の涙を流すだろう。二分たっても犬達の空気は変わらない。やがて五分経った。ただ、ひかるは気づいていた。そっぽを向いているようなれんげを、子犬はじっと見つめている。そして、すこしづつ近づいて、れんげの匂いをかぐような素振りを見せ、まるで自分の存在を分って欲しいとでも言うように、尻尾をふりながら飛び跳ねるような仕草をする。茅ヶ崎の預かりさんは「あら、チビちゃん分るのかしら」と言い、山本夫人も「ほら、れんげ、いい子いい子してあげなさい」などと言っている。ひかるは、れんげと向かい合うような位置でその様子を観察していた。れんげの後方にいる山本夫人には分らないが、れんげが、時おり、その子犬を愛おしそうな目で見ていることに気付いた。普段から優しげな目をするれんげだが、自分の前ではしゃいでいる子犬を見るれんげの目は、さらに優しく愛情のこもった光が放たれていた。ーーーーー