探偵日記 9月28日月曜日 晴れ
03時に目が覚めてトイレに行った後、気持ちよく寝ていたら、05時過ぎ、見張り番が僕の部屋を勢い良く開けて闖入してきた。とっさに浮気がばれたか。A子か、B子か、はたまたC子か。僕の頭脳はコンピューターのごとく急旋回したが、そういう事件はもう20年以上前に終わっていることに気付いた。見張り番の第一声「ね、貴方車を出してよ」というものだった。「どうして?」と聞くと、「径(娘のこと)を救急で、(死に来た病院)じゃあなくて、河北病院に連れて行くから」と言う。何で?と聞くと、昨日から高熱が出てどうも変だ。との由。「じゃあ、救急車を呼べばいいじゃあないか」と抵抗したが、寄り切られて、二人を乗せて病院へ。その結果、娘は入院する羽目になり、僕の大事な朝ごはんはナシ。駅前のホテル「すまいる」のレストランでボソボソと済ませて事務所へ。前の日、同じ河北病院で診察を受けている。ドクター曰く「風邪かな。じゃあこの薬を飲んでくださいすぐ治りますから」と言って、解熱剤と胃薬をくれたらしい。それから十数時間後、娘は呼吸困難になり、改めて診てもらうと(大変だ~大変だ~)で、緊急入院と相成った次第。
れんげ 55
あの日、シロの子どもが罠にかかって苦しんでいる光景を目の当たりにしたあと、あんな酷いことをしたのはどんな人か秘かに調べてみた。まず、わざわざ東京の法務局まで行き畑の権利者を割り出した。多古町を所轄する法務局を避けたのは、その時は深い理由はなく、地元では横のつながりも多く、所有者に知られる懸念を持ったからであった。楓夫婦はこれから長い期間この町で暮らすことになる。少しでも、地元の人との軋轢は避けたい思いもあった。
幸い、最近はどこの支局でも日本全国の謄本が取れるようになっている。楓は、佐藤という認印を用意して申請者の住所氏名を偽った。その結果、畑の持ち主は地元の農家で、(野口幸夫)であることを知った。しかしだからといって、野口家に対し何をするつもりもなく、たんに、自分のやりきれない気持ちを静めるほどのものでしかなかった。町には、ところどころに、地元の農家が即売する施設が設けられ、主に地元の住民がその日の夕餉の食材を買いに訪れた。楓もそんな販売所に足を運んで、新鮮な野菜を購入しながら、それとなく野口家の様子を探ってみた。ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー