探偵日記 11月20日金曜日 曇りのち雨とか
今日1時に新しいご依頼人が來所の予定。何時もそうだが、初めての人と会って、依頼案件の話を聞くのは楽しみである。まあ、ご婦人が沈痛な面持ちで来られ、苦しくて悲しい胸の内を聞くのは、如何に仕事とはいえ決して愉快なものではない。ただ、今日の訪問者は、ある意味当事者ではなさそうだし、歴とした意味もある調査が推測され、合意に達すれば探偵冥利につきる調査になるだろう。
昨夜は銀座のクラブで顧問先のトップと会い新しいリクエストを頂いた。人から人へ。これが僕の営業の基本だが、若い人にはもどかしい考え方かもしれない。
おもろい探偵たち その 3)危ない探偵 1
昭和46年、やはり神田のT探偵事務所に探偵志望の男が入った。時の総理大臣田中角栄が打ち出した(日本列島改造論)の影響で我が国の経済も徐々に上向きつつあった頃である。その男は当時28歳。前職はブティックを経営していたという。新米探偵としてはやや籐の経った感はあったが、男子の気概みたいなものが感じられフットワークも悪くなかった。名前はC。身長160センチそこそこの小柄。日常生活が不規則なのか、やや小太りで大き目の顔は何時も疲労を滲ませていた。
ところが、Cには別の顔があり、とてつもない能力を備えていた。といっても正統なものではなく、めっぽう(ごまかし)が上手いのだ。入社して間もない頃、ある先輩と人妻の浮気調査をやることになり社用車で出掛けた。マルヒの家で張り込むこと3時間。やっと姿を現したマルヒはやはり車で外出。依頼人の想像通り男を拾った。早速ラブホテルに入り、やがて出て来た。探偵としては、この後、人妻の相手の身元を特定しなければならない。ところが尾行するうち、マルヒらに不審に思われ、マルヒは、何とか探偵の尾行をまきたいと変則的な走行を始める。普通、こんな場合、一旦尾行を打ち切って、再調査に賭けるのが常道なのだが、先輩探偵も、いってみればまだ駆け出しだった。むきになって追いかける。相手も必死になって逃げる。その時、業を煮やしたCが鞄から何やら取り出し車の屋根に取り付けた。すると、覆面パトカーに早変わり、赤色灯は勢い良く回り始め、おまけにスピーカーを取り出したCが「前の車停車しなさい」と連呼した。------------