探偵日記 03月02日月曜日 雨
09時、小雨の中クラブが数本入ったバックを持って練習場に行く。毎週月曜日は教室でのレッスンがある。やはり正しい指導を受ければ練習のし甲斐がある。ただ、まだコースでその成果が著しく現れるまでには至らず、相変わらずとんでもないミスを連発する。11時、一旦帰宅してシャワーを浴び、仕事の態勢で家を出る。14時、新宿の喫茶店で依頼人と面談。調査員があるビルの前から500ミリの望遠カメラで隠し撮りした出入りのスナップを十数枚見てもらう。それで対象者が特定出来れば本格的な調査を開始する。内容は詳しく書けないが、或る企業から依頼されて、社員Aがが行ってるはずのない建物へ出入りしているかどうか確認したのである。17時、予約してあるクリニックで治療してもらい(先生、今日お酒飲んでいいかな~)と聞くと、ドクターが怖い顔で「ダメ」と言う。すごすごと帰宅。
新宿・犬鳴探偵事務所 3-02
秋になり、誰かの歌の文句ではないが(見知らぬ人から便りが届いた)十和田の工藤さんから箱一杯の真っ赤なリンゴだ。中に手紙があって、沙織からだった。術後も順調ですっかり元気になったこと、東京での再就職も決まって、年内には上京することなど。そして、今度は自分が依頼人になって結婚相手の調査を頼むかもしれませんと書いてあった。
この頃は、バブルも陰りが出始めていたが犬鳴の貧乏探偵事務所はそれなりに依頼が入り、経済的な心配がないことをいいことにして、趣味の麻雀と協会会活動に明け暮れていた。数年前に設立された日本調査業協会が晴れて社団法人となり、この年の9月、ホテルオークラの会場で華々しく設立記念のパーティが催された。犬鳴は常任理事の一人として来賓を迎えた。胡散臭い職業として、四大新聞は社員募集の広告を断るなど差別され続けたが、ようやく「正業」として認知された瞬間だった。
その会場はオークラで一番広い部屋で、主管の警察庁からも担当者が祝辞を述べるなど、大いに面目をほどこした。そんな中、犬鳴はそっと会場を見まわした。居たいた。銀座で探偵事務所を経営する件の人物。モーニングを着て誰彼となく挨拶を交わしている。もしかしたら、今日一番喜んでいるのは彼じゃなかろうか。犬鳴は業界の彼に対する風評を反芻しながらそう思った。・・・・・・