探偵日記


2020年09月08日火曜日 晴




台風一過、とりあえず朝は晴天だ。但し、大気は不安定でときおり雷雨もあるらしい。寒い冬が過ぎ、やっと春が来るぞ。と思っていたらコロナ、加えて、不況、長雨、猛暑日、そして台風。長引くゴルフの不調?まあこれはあんまり関係ないか(笑) 令和2年も残り4か月を切った。何とか乗り切りたいと願う。




新宿・犬鳴探偵事務所




依頼人の娘と同居することになった女性調査員から頻繁に連絡が入る。風でアパートのドアがきしむと「来た~」と言っておびえ、窓に人影でも写ろうものなら「警察、警察」と言って今にも通報しかねない勢いで騒ぐ。(たまりません)と、嘆く調査員を宥め、さらに調査は継続された。しかし、犬鳴も調査員任せで何もしなかったわけではない。1日、彼女を外出させ、別の調査員に監視させた。当然ながら彼女を尾行する輩はいない。前もって(自然にふるまってください、あまりキョロキョロしないように)などと断ったが、急に立ち止まったり、しきりに後ろを振り返る。しかしまあこれも想定内である。尾行班の調査員はビデオを回しこうした状況を記録した。




何となく、大勢の人に守られている。ことを認識してか少しづつ落ち着いてきたようだった。そこうしているうちに依頼人の母親も再び上京し、これを機会に二人に事務所に来てもらった。彼女が外出した時の様子をビデオで見せながら説明しようとしたのだが、その数日前に、彼女の提案で、同居中の調査員を伴って、彼女がいつも行く銭湯に行った。彼女曰く「私が行くと必ず客のみんなが中傷誹謗するからその様子をしっかり見て欲しい」というもので、調査員は、自分の脱衣籠に録音機を忍ばせ湯船につかった。その時のテープも用意してあった。




犬鳴も当然そのテープを聞いた。戸の開閉音、番台のおやじの(いらっしゃいませ。今夜はちょっとお寒いですね~)という声が、周囲のざわめきと一緒に入っているだけで彼女のはなしなどこれっぽっちも出ていない。ビデオの次にそのテープを聞かせる。母娘は身じろぎもせず真剣に耳をそばだてて聞いている。やがて終わり、母娘は顔を見合わせて何かを確信したようにニッコリ笑った。犬鳴も一緒に聞いていたのだが特に気にするような箇所も無かった。すると、娘のほうが「所長さんお分かりになりません?」と言う。犬鳴は少し狼狽し(申し訳ございません、どの部分でしょうか)と聞くと、母娘は少し蔑んだような眼差しで犬鳴を見つめ、テープを巻き戻し、(今夜はちょっとお寒いですね~)というおやじの声の部分を指摘し、(この会話の中に私を中傷する言葉が含まれているんです)と言った。----