10月14日日曜日
今日は年に1回催をされる「東京宇賀村人会」僕の郷里の出身で、在京（近県も含む）の人達の集まりの日。正午、会場の、後楽園飯店に行く。会場をここにしたのは、長老のお一人が、かって、後楽園の重役だったため、何かと便宜を図ってもらえるメリットがあるから。僕の田舎（郷里）は、山口県下関市。といえば聞こえがいいが、市になったのは最近で、その昔は、山口県豊浦郡豊浦町大字宇賀村字湯玉と呼ばれていた。山陰本線「湯玉」は、今では完全に過疎化し、単線の無人駅。誰かの歌ではないが、喫茶店も無い半農半漁の町となった。それでも、真面目な努力家を多く輩出しており、僕の先輩には、前述の後楽園の重役や、上場会社の役員も多い。中でも突出しているのは新日鉄の社長を務めた（宗岡さん）がいる。本日も、元、帝京大学医学部の教授、作曲家も出席していた。
今日は郷里の言葉でお話しましょう。と、幹事の勧めもあって、久しぶりに田舎の言葉を使ってみた。そうですね（それっちゃ）帰ろう（いのうや）掃除等をきちんとしない人（びったれ）等々。僕はビールと焼酎の水割り2杯飲んで、すっかり良い気持ちで事務所に辿り着いた。（ふるさとは遠きにありて思ふもの）東京から1100キロ離れたところに郷里のある僕は少しだけ幸せなのかもしれない。
そうだ、自殺未遂をしたあの奥さんはどうしただろう。
相続 その4
35億円。想像もつかない金額を言われ、ほとんど実感も無いまま曖昧に頷いた僕は、それでも、少し身の引き締まる思いで依頼人と対峙した。住んでいるマンションの5階から飛び降りたものの一命をとりとめ、女の意地を貫きたい。と、縋る様な目で僕を見つめてる婦人。差し当たって、それほどお金を欲しくない探偵。多分相当世間知らずなのだろう。野良犬みたいな探偵、もし僕が飢えた野良犬だったらーーーー
悲しいかな、僕は根っからの田舎者である。確かに世はバブルの真っ最中とはいえ、依頼人の言う金額に感覚がついていかない。経済面で潤っているとはいっても、貯金があるわけではない。ただ、日々贅沢三昧出来る程度の入金があるに過ぎない。ましてや、35億円に見合う調査って？そんなものないだろう。と、思う。それでも、歴とした仕事であり、実際に、その依頼人が僕の目の前に座っている。もう（そんなことは出来ません）といって帰すほどお人好しでもない。
（分かりました。じゃあお引き受けいたします。でも奥さん、100パーセント後期待に応えられるかどうか確約は出来ませんよ。）続けて、（まあ、僕もこの仕事を20年以上やってきましたから、人の感情を多少コントロール出来るノーハウはああります。ですから、調査方法について、その都度ご提案いたします。奥さんが承知したものに限り実施しましょう。費用もその都度頂きます。）と言うと、「結構です。さっきも申し上げましたが、私はお金なんか必要ありません。ご遠慮なくおっしゃって下さい。」依頼人はそう言って、やっと屈託無く笑った。
その後、まず最初に行う調査として、（ご主人はともかく、女性の身元や日々の行動を詳細に調べましょう。これは、奥さんとご主人及び女性二人との戦いです。良く調べれば二人のウイークポイントも見つかるでしょうから）を提案し、凡その調査費用も提示し、この日の打ち合わせは終わった。－－－－－－－－