相続 その7

その後も、調査は継続した。依頼人は僕の報告を大喜びして聞く。特に、二人がハワイ旅行を断念せざるを得なくなった場面では、「面白いわね~」と言いながら大満足の様子だった。依頼人に満足してもらったり、成果に感嘆されたときは、探偵冥利につきる。実は、二人のハワイ旅行の情報は、女性がつい最近まで勤めていた銀座の高級クラブで得たものである。僕はそのクラブに貿易会社の営業部長の肩書きで通い、女性の大親友にそれとなく接近し、同伴出勤したり、プレゼントをしたりしながら、信頼関係を築き、食事の時や、お店で飲む時、それとなく聞き出した。金払いが良く決して威張ったりしない僕を、(上客)と見た「たかちゃん」(源氏名)は、すっかり気を許し、店や同僚ホステスのシークレットなことまで耳打ちしてくれた。

何度も言うようだが、当時はバブルの真っ最中、10時を過ぎようものならタクシーがつかまらない。僕は、帰るときボーイに1万円渡しタクシーを調達させた。したがって、ホステス達だけで無く、ボーイや黒服からも歓待され暫し御大尽の気分を味わったものである。それもこれもみな依頼人のお陰なのだが。---

しかし、苦い後日談がある。クラブに客を装い内偵する仕事もひと段落して数ヶ月経った或る日。この間、僕の事務所が何かのテレビ番組で紹介されたことがあった。調査員達は皆モザイクをかけ、顔を特定出来ないようにしたが、テレビ局の希望で、責任者の僕だけは顔も出してくれと言う。探偵の僕が。と、一瞬躊躇したが、事務所の宣伝にもなるといわれ承諾した。ところが悪いことは出来ないもので、この番組をたかちゃんが見てしまった。

マルヒの不倫相手の女性とたかちゃんの会話、「あのさー私びっくりしたわよ。ちょと前、貿易会社の営業部長が良く来てるって話したでしょう。あの人本当は探偵だったのよ」(たかちゃん)「そんなことないよ。たか子の見間違いだよ。だって、探偵があの店に来れっこないもの」(女性)「そうかなーこの間テレビに出てた人だと思うけど」(たかちゃん)「たか子に服買ってくれたりして毎日来てた人でしょ」(女性)「そうそう、でもあの爺い本当に可笑しな人だったよね。一度だってHなこといわないんだもん」(たかちゃん)ーーー 僕は当時43歳だった。それが、クラブのホステスにかかると(爺さん)となる。(笑)

やっぱり、例え、(もう現場に出たりしないから)と思っても、探偵たるもの絶対に表に出たら駄目だと反省した。

それやこれや色んなことがあって、1年余りで、(不動産会社社長の素行調査)は終了した。35億円全部使って。と言った依頼人も「満足しました)と言って、調査の中止を指示してきた。勿論、僕の事務所が頂いた調査料はその数パーセントだった。母親も亡くなっただろう。依頼人は、また莫大な遺産を相続したはずである。二人の子供も成人し、親孝行してるだろうか? そして、依頼人は幸せに暮らしているだろうか。-------(了)

10月17日水曜日

今日は、いつもお世話になっている日本橋の会社の社長とランチした。月に1,2度呼ばれ、レストランでランチをご馳走になる。羨ましいぐらいのお金持ちで、女性にも良くもてる。今日改めて歳を聞いてみたら、昭和?年生まれとの由。姿勢が良く背筋もピンとして頗る元気だ。何時も思うが、僕もそうありたいと願う。できるかな~