相続 その6

10月16日火曜日

毎朝の犬の散歩も少しづつ慣れて、早起きも苦にならなくなった。但し、夜遊びを控え早寝するからで、若干ストレスになっているかもしれない。朝1時間の散歩で、4500歩くらい歩く。したがって、1日1万歩以上歩くことになり(健康)という事を考えると悪くないと思う。

ただ、6時に帰ってきてすぐの食事は、今までと時間が異なるので食欲がわかない。だから、少し休んで8時にしたら美味しく食べれた。習慣とは怖いものである。



相続 その6

いかにバブルとうじとはいえ3,000万円は大金である。但し、その頃は、1ルームマンションですら買えない金額だった。事務所では、本件に調査員10名をあて、特別にチームを編成した。依頼人に応えなくてはならない。しかし、法律の枠を大きくはみ出す事も出来ず当面は、尾行と内偵に限って進め、要所で多少際どい工作を行った。依頼人が初めて事務所を訪れたのが、夏の終わりだったが、そうこうしている内に秋も深まり、街にジングルベルがながれる季節を迎えた。

或る時、ひょんなことから、マルヒと女性が正月をハワイで過ごすらしい。という情報が入った。早速依頼人に報告すると、「絶対にやめさせてくれ」と言う。この頃になると、依頼人の表情も幾分明るくなって、時には冗談も言い合うようになっていたが、(二人を幸せにしたくない)依頼人にとって、子供たちも行ったことの無いハワイに、ホステス風情と。と、考えただけで、震えるほどの怒りを覚えたようだ。

(分かりました何とかしましょう)と言ったものの妙案があるわけも無く、さてどうしたものか。と思っていたところに、調査部長の池沢がこんな話しをした。「所長、マルヒの会社は凄いことをするんですね。」(どういうこと)と僕が聞くと、池沢は、「脱税ですよ。例えば、3億円の土地を購入したあと、スポンサー筋に売却するんですが、スポンサーと話が出来ていて、その物件を、ペーパーカンパニーの関連会社でたらいまわしにし、その都度利益を得た後、スポンサーの会社が30億円で買い取る仕組みになっているんです。」と言う。

そういうことに疎い僕は、池沢の話を聞いてもピンとこないが、スポンサーの会社が、信頼関係の出来ている銀行から融資を受ける時の便法という事だけは分かった。当時の金融機関は、優良取引先のいいなりであり、本来の物件の価値等斟酌せず、言われるまま応じていた。(ふ~ん)と言って何気なく聞いていた僕は、池沢の話にヒントを得て、ある工作をした。詳しくは書けないが、結果として、二人はハワイに行けず、楽しみにして、友達らに自慢げに報告していたホステスちゃんが泣き叫ぶことになった。

ただ、マルヒの会社の顧問税理士が国税にめっぽう強い先生だったようで、マルヒ及び関係者は事なきを得た。僕は時々思う。この世の中の正義って、99パーセントお金で買える妄想みたいなもの、と。-------