カーネーション一覧

カーネーションその4

依頼人は同期の中でも出世頭で、早くから取締役候補だった。仙台支社の支社長就任もその試金石のようなものだったらしい。大手企業に勤務する幹部社員がニューヨークの支店長になったら帰国後役員になる可能性が高い。したがって、依頼人も5~6年大きな失敗をしなければ50歳前後で本社の取締役になるのは間違いないところだった。 しかし、実父の逝去という或る意味で想定されたアクシデントのため、依頼人の意志とは関係な...

カーネーションその3

依頼人には妻と二人の子があるという。不思議でもなんでもない当然の状況であろう。小たりとはいえ会社を経営、経歴も人に誇れるものである。 実父の逝去を機に、およそ10年前、長年勤めた商社を退職し家業にはいった。実父は鉄鋼関係の二次問屋を経営していたが、業界では知らぬものが居ないほどの人物で、一時期は、カルテルをも仕切っていたらしい。豪腕で経営能力もずば抜けていたようで、本業以外に、所有するビル等の自...

カーネーションその2

この日僕は宮城県の亘理という町に居た。数日前に入った新規の依頼案件で、少々変わった内容の調査だった。 依頼人は中年の婦人でその娘を同行して我が貧乏探偵事務所にやってきた。マルヒ(調査対象者)は、この娘の夫の父親である。 身内といってもいいような人を調査する理由はこうだった。 「先方のお父さんに私脅されているんです」 息子の嫁の母親を脅す?このご婦人少しいかれてるのかな。と思ったが勿論そんな...

68歳第1日目

昨夜も小刻みの睡眠で、やや体調不良。それでも10時半、事務所到着。貧乏性というか、どうしても家でじっとしていられない。休むことが罪悪に思えるのだから死ぬまで働き続けるに違いない。という訳ですので、この貧乏探偵社をどうぞ宜しく。 今日から、拙著の次回作に予定している「カーネーション」(仮題)を少しづつ書いてみようと思う。今から4~5年前の案件で、依頼人の心理状況が当時の僕のそれに似ていたことも...