新婚旅行 4

今日も家を早く出て、9時半ぐらいには事務所に入った。何かに急かされるような心境で、事務所にいるだけで、仕事ははかどらず時間ばかりが過ぎてゆく。生きてゆくということは、時の移ろいとともに、煩雑な環境と戦うようなものかと思えるほど、ただ、気持ちだけが焦燥感に責められる。 本年4月、今までの事務所からピッチングの距離に分室のような事務所を設けた。ところが、そこから無間地獄のような不況に見舞われ、大...

新婚旅行 3

8月27日月曜日、時間の経つのは早い。1ヶ月以上前、さあ、夏休みだ。と喜んでいた子供たちもあと数日で終わり、今頃は、頭を抱えて宿題をこなしているに違いない。僕の頃もそうだった。毎日、いや2日置きにでもノートを開いていればそんな苦労をしなくてもいいのだが、ついつい遊びを優先して毎年後悔したものだ。僕など、大人になっても変わらない。早く片付けなければならない仕事があっても(まあ、明日やればいいか)と、...

新婚旅行 2

翌日、、依頼人の要望により早速調査に入る。若い夫婦ゆえ共働きも当然であろう。夫婦は同じ職場で知り合い、結婚後もそのまま勤めている。ただ、就業している場所は、依頼人が本社で、マルヒ(妻)は支店のようなところだった。 午後4時、マルヒの勤務先付近に到着、直ちに張り込みを開始する。同5時7分、営業所の入るビルよりマルヒが出てくる。薄手のコートを着ているので、服装は詳しく分からないがスカートにヒール...

新婚旅行 1

8月24日金曜日、毎日のことだが、本当に今日も暑い。 それでも老コナンは休めない。午後1時、やっとのことで事務所にたどり着き、2~3打ち合わせを済ませたあとパソコンに向かう。今日から、僕が探偵になった頃、担当した調査について書いてみる。当時の僕は、神田駅に近い「東京探偵事務所」に勤務していた。所長はNさん。茅場町に古くからあるS探偵事務所を辞め独立したばかり、Nさんが採用した探偵見習い第一号...

8月23日(木曜日)処暑

昨夜勉強会のあと少々飲んで帰宅。昼間は猛暑だが、流石に夜ともなれば風は涼やかで秋の気配。あっという間に季節は移り、僕の嫌いな冬がやってくる。 今日は暦の上では「処暑」暑さもおさまる頃。なのだが、とんでもない。益々暑くなりそうな感じである。 僕は何時ものように、7時半の目覚ましで起き、すぐに朝食。そのあと少しゆっくりして事務所に。今夜は、日本橋の社長と会食の予定。帰省した時に求めた故郷の...

クリニック 14

そうして1年ちょっと関わった美容整形クリニックの院長「出水聡」に係わる素行調査は終了した。報告書を何通出したか分からないほどの調査だったこともあり、8年以上経った今も、調査の内容や依頼人のことを時々思い出す。素朴な主婦だったが、内に秘めた女の性に何となく激しいものを感じた。折角手にした思いがけない「幸福」を、ちょっぴり美人だからといって、精神を病んだこともある女性に奪われた悔しさは、他人には計り知...

クリニック  13

依頼人は、不服そうだったが最終的には僕の説得を聞き入れ、前田家を攻撃する作業はせずにすんだ。その後も、依頼人とは頻繁に会ったが調査をする必要も無いまま数ヶ月過ぎた。会ってする話といえばどうしても本件に関することになり、マルヒの院長がどうしたとか、ああしたといった内容で、加えて、前田恵子のことになった。それでも、依頼人から「明日の行動を見て欲しい」と言われれば、無碍に断る訳にもいかず単発的に慣れ親し...

クリニック 12

およそ10日ぶりにパソコンの前に座った。パソコンを立ち上げる暗証番号こそ覚えていたが、ネットでブログを開くパスワードが間違ってて、何度もやり直した。何のことは無いハイホンが抜けていた。 8月10日午後1時、首都高「永福町」から高速に上がる。三鷹、八王子を経由、何時ものように、中央高速で、小牧から名神、吹田で中国自動車道に入り、1100キロを走り、11日午前4時、古里の家に着いた。愛犬のタイち...

クリニック 11

自身を探偵と称しているが、僕の知らない顔だった。この時すでに30年以上この世界に身をおいている僕だが、狭いようで広いのか、はたまた、一般に知られざる業界故か面識の無い同業者は結構居る。Yもその一人かもしれない。(かもしれない)と思ったのは、果たしてYが探偵かどうか疑問だったからである。依頼人のもとに届いた手紙の文章や、わざとかえたらしい文体からある程度の年だろうと思っていたが、写真で見るYは、僕よ...

クリニック 10

しかし、そんな調査をして、付録のような事実関係が明らかとなっても依頼人の利益に代わるようなものではなかった。僕も何となく達成感が感じられず、(もうやめましょうよ)というのだが、案外頑固な人で容易にうんと言わない。世の中には調査を依頼したくてもお金が無くて、探偵社のドアを叩けない人が山ほど居る。僕はむしろ、そんな依頼人のほうが好きで、(できる限りのことをしてあげたい)と思うのだが、タイミング良くそん...