探偵日記

探偵日記 6月26日水曜日雨

朝起きたときは、どんより曇っていたが雨はまだ降っていなかった。4時40分、大急ぎで散歩に出掛ける。この一年、僕の日課は、我が家の愛犬タイちゃんの散歩から始まる。というか、というより散歩から帰ると一日の日課の大半が終わったような、妙な達成感がある。勿論まだ現役の探偵の僕にはやることが沢山あるが、とりあえず息子を代表にしたことで、責任の一片から開放されたような気持ちになった。今日も午後三時に新規の依頼人と待ち合わせている。多分、事務所的には期待の薄い依頼人だろうと思うが、どんな依頼人も大切に思い接してゆくことが僕のポリシーであり、どうかすると、経費も貰えないような案件でも熱心に遂行する。ちっぽけな仕事でも疎かに扱うと全体の運気が衰える。要するに(ツキが無くなる)のだ。人間だから仕方の無いことながら、反対に、充分な費用を頂いても好きになれない依頼人もいる。

もう随分前のことだが、大金持ち(成金だが)の依頼人がいて、自分に背を向けた女性を調査してくれという。依頼人の男性とその女性は1年余りの交際だったが、一回り年下の銀座のホステスにえらく執着していた。そのホステスには数人の男性がいて、それらが上客となって毎月の売り上げが上がり30人ぐらい在籍するそのクラブでトップクラスの売れっ子ホステスだったようだ。ところが、「自分だけの女になってくれ、生活の保証はする」と言われたホステスは、一旦、承知するような素振りを見せたものの(貴方より好きな人がいるのでお断わりしたい)と言った。まさか自分ほどの男の申し出を断る女性がいようとは、微塵にも考えなかった依頼人は衝撃を受けた。

仮に僕ならば、(ああそうかい達者でな)で終わるが、依頼人は諦めず醜態を晒してしまった。ホステスに対し、(今までプレゼントした貴金属や服、あげた小遣いなど全部返せ)と言ったらしい。ここで勝負あった。まだ多少気持ちを残していたホステスも完全に愛想を尽かし、手元にあるそれらの品々を送り返してきた。不遇の時こそ男としての真価が問われるものだと思う。しかし、そんな男を見て、(それほどまで私のことを好いてくれていたのか)と思う女性も居るかもしれない。いないかな~