賃貸屋の朴 2

探偵日記 7月30日火曜日晴れ

昨日は某司法書士先生と所長(息子)の三人で食事した。店は所長が予約。行ってみると広い店には8割がた女性で、なんとかしましい事か。ただ、周囲の壁が水槽になっており沢山の熱帯魚が泳ぎ、清涼感はあった。食事はアジアン風で僕のような年寄りには合わないが、先生や所長は抵抗感無いようにみえた。3時間ぐらい過ごし解散する。数年前なら歌舞伎町に繰り出していただろうけど、今はもうそんな元気は無い。何より、翌朝のタイちゃんの散歩を考えると(その日の内に寝たい)となる。人はみなこんな感じで老いさらばえてゆくのだろうか。
今朝は4時半起床。意外にもまだお休み中のタイちゃんを起こして外に出る。1時間後、イヤイヤをするタイちゃんを叱りながら帰宅。正午事務所へ。

賃貸屋の朴 2

決済が無事に済み(?)「お世話様でした」と言葉を交わしながら別れる。先方の代理人と仲介の不動産業者は夫々の取り分を鞄に詰め満面の笑みを浮かべて退室した。依頼人も(ひと仕事)済んだ安堵で少し疲労感を覚えたが、色々と物件を購入してくれる買主の地主宅を訪問し、改めて例を述べて帰社した。会社には最初にこの話を持ち込んだ不動産ブローカーのKが待ち構えている。依頼人の顔を見て、「ああ、お疲れ様でした」と労ったが、謝礼を渡すとそそくさと帰っていった。依頼人は、このブローカー氏を信頼し、尊敬もしていた。年齢は60歳を少し出たばかり、バブル時には渋谷で地上げの会社を経営し、多い時は300人の社員を抱え、新宿の最上か渋谷のKか。と言われた人物だった。勿論、新宿で探偵事務所を営む犬鳴も彼のことは良く知っていた。小柄だが、眼力の鋭い男である。バブル崩壊後は港区のほうで頑張っていたようだが、十数年後、一介のブローカーとなり昔の面影は無かった。

仲介し、スポンサーともいえる地主にマンションを引き渡し、入居者に所有者が変わった通知も済ませたが、500万円貸し付けた不動産業者からはなしの礫だった。何度か携帯に電話をかけてみたが繋がらない。会社にかけても、事務の女性が「ただいま出張中で何時帰るか分りません」と言うばかりで一向にらちがあかない。それでも依頼人は、(古い業者だし、同業の自分に変な事はしないだろう)と思いつく別心配もしていなかった。さらに10日ばかり経った或る日の午後、地主から「すぐに家のほうに来て欲しい」という連絡が入った。---------