賃貸屋の朴 4

探偵日記 8月1日木曜日朝小雨後晴れ

朝4時、自然な形で目が覚めたのでタイちゃんを呼んで散歩に出る。しかし小雨が降ってきたので例によって高架下へ。元気に歩いていたタイちゃんが突然(キャアン)と啼いた。あれ~僕は彼の足を踏んだのかな。と思ったがそんな感触は無い。暫くすると、また啼く。今度は僕も注意していたので少し距離をとっていたから決して僕のせいではない。(どうしたの?)と聞いてみるが勿論返事は無い。その代わり、僕の顔を怖そうに見ている。知らない人が見たらペットを虐待する飼い主と思うかもしれない。大を3回したので(帰ろう)と言うとさっさと帰宅した。家の者に聞いてみると「体を触らせない」と言う。足か何か自分で痛めたらしい。でも、食欲はあるのでまあいいか。
10時過ぎ、気まぐれで車で出る。

賃貸屋の朴 5

そうこうするうち朴側から訴訟を起こされた。「真正なる登記の回復」である。売却した覚えの無い朴にしてみれば当然過ぎる主張である。何が何だか分らない依頼人は、やっとのことで連絡のついた売主側の仲介業者に問い質すと、「自分も良く分からない。朴の代理人に聞いてみる」と言っていたが、次に、「もしかしたら買主の負けになるんじゃあないですか」と、他人事である。司法書士も「確かに本人確認したんですが、私が面談した人は朴さんじゃあなかったみたいです」とこちらも責任逃れの言い草である。次回の公判までに出来るだけ材料を集めたい。ということで、犬鳴探偵事務所にお鉢が回ってきた。

犬鳴は依頼人やもと地上げの帝王Kから経緯を聞き(そんなことがあるのかな~)と思ったが、実際に被害者になりつつある依頼人の若社長は、顔に脂汗を滲ませほとほと困りきっている。横に座っているKは「僕も紹介した責任があるので犬鳴さん宜しく頼む」などと相槌をうっているが、すでに謝礼を貰った後なので困った顔はしていない。更に、「いやあ、僕も言ったんですよ。朴本人が来ない場合は絶対契約はしなさんなとね」と、自分の忠告を聞かず契約を急いだ若社長を責めるような口ぶりである。権利書が無く、名義人本人が出席しないで契約をした失態を暗に詰っているのである。(例えば、先方の仲介業者とか司法書士を刑事告訴できないんですか?)犬鳴が聞くと、依頼人やKは、「それも考えたんですが、こっちの弁護士曰く、警察が受理してくれないだろう。って言うんです」との由。したがって、調査依頼の趣旨は(先方が朴と談合して、この売買契約を仕組んだ証拠を掴んでくれ」というものだった。

ちょっと探偵の領域を超えているし、犯罪を証明する確たる証拠や傍証を得られる自信は無かったが、犬鳴は、(それでは、関係者を一人ひとり調べてみましょう。その過程でこれはと思える資料が上がったらまた打ち合わせをするということで)と言って、本件を正式に受件した。前述の通り、依頼人から500万円を借りっぱなしの仲介業者は、法人登記簿上の住所には住んでおらず、代わりに社員が住んでいる。したがって、郵便物は届いていた。調査はまず、仲介業者の(本当の住所)を特定するところから開始した。----------