賃貸屋の朴 3

探偵日記 7月31日水曜日晴れ

昨夜は久しぶりに調査に参加し結局朝3時40分帰宅。寝る前にタイちゃんお散歩を済ませようかな。と、思ったが幸いまだ起きておらずこっちも疲労困憊していたので、そのまま寝てしまった。8時に朝食を頂きまたベッドへ。小刻みに睡眠をとって正午ごろ家を出る。まだ30代の頃、三日三晩一睡もしないで麻雀をしたことがあるが、さすがに最近は寝不足が顕著に出て、意思と裏腹な行動をとってしまう。今日は早く帰ってゆっくり寝よう。

賃貸屋の朴 3

何か新規の売買話かと期待し、依頼人の若社長はホイホイといった感じで地主宅を訪問した。家には、地主の他、先日の契約に立ち会った代理人の番頭さんが待ち構えていた。(あ、どうも遅くなりました)愛想良く言って、自宅を一部改造した事務所に入る。地主も「ご苦労さん」と声をかける。しかしその後、番頭さんの話を聞いて依頼人は驚いた。「社長、この間の契約なんだけどまんまと一杯食わされたかもしれないよ」(何のことでしょうか)すぐには番頭の言葉を斟酌できず、少々間の抜けた返事をした依頼人が先を促すような表情をすると、番頭が説明を始めた。

東京中野にあるワンルームマンション1棟を購入した地主は、たまたま空いた一室のリホームをするため、売主から受け取っていた合鍵を持って、リホームの業者を伴ってマンションを訪れたという。ところが、カギが違うのか開かない。(おかしいな)と思った地主が、その部屋の隣の部屋のカギを取り出し、勿論、不在を確認したうえで空けようとしたがダメだった。どうしたんだろうとあせった地主が、24室全て試みた結果、どの部屋もぴくりともしなかったらしい。それが一昨日のことで、仲介した依頼人に連絡しようとしていた矢先、今日、物件の売主である朴の代理人と称す弁護士から内容証明が届いた。「これがその手紙だ読んでみなさい」と言われ、手にとって読んでみると、通告書と題した文書に次のように書かれてあった。

「私は朴・・の代理人××です。○月×日、東京都中野区○○町・・・・の登記簿謄本を取り寄せたところ、所有権が貴殿に変更されており非常に驚いております。ついては、本登記は違法に行われたもので、直ちに真正なる所有者に返還されたく、ここに通告いたします。もし、異議のある場合代理人まで連絡下さい。」要するに、前所有者である朴は、自分は当該マンションを売却するつもりは全く無く、過日なされた売買契約を認めない。場合によっては「詐欺」などで法的手段に訴える。と言っている。持ち主が知らないうちに、勝手に第三者が名義を変えたのだから元に戻しなさい。と言うのが、朴の代理人の要求であった。もし本当に朴が承知していないのであれば当然過ぎる言い分であろう。

依頼人と、地主、そして地主の番頭は弁護士からの内容証明書を前に沈黙した。この場合、こちら側の全責任は仲介業者である依頼人にある。2億5000万円もの大金を支払った地主は(善意の第三者)であり、成り行きによっては詐欺の被害者となろう。前所有者の朴も同様である。そして、月末になったが新しい所有者の地主のもとに、家賃の振込みは一切無かった。------