探偵日記 8月5日月曜日晴れ
金、土、日とブログをお休みした。金曜日は仕事で、土曜日はずる休み。(床屋さんには行ったけど)日曜日はゴルフ。それなりに理由がある。そして今日は久しぶりの事務所。朝食を済ませて早々に支度をして出てきた。戦中派としては、仕事もせずぶらぶらすることは罪悪に思える。同窓の一人が言う。彼はJRに勤めていたが60歳で定年退職した。(よし遊ぶぞ)と勇み立ったのはいいが何をしたら良いか分からない。それでも、妻がパートに出た後、ゴルフの練習に行ったりたまには映画を見たり、時には、車で数時間の実家(我々の郷里)に帰り母親の様子を見たりして過ごしたが、3ヶ月もするとやることが見つからなくなった。半年後、精神の異変に気づく。子供の頃から超真面目人間の彼は、社会人になってからの40年余り羽目をはずしたことは一度も無かった。欠勤や遅刻は一度も無く、たまの飲み会も目立たないように節度を持って、周囲の雰囲気に合わせて静かに飲み、勿論二次会のカラオケはパスして帰宅した。
家庭は二人の子供も順調に成長。娘は嫁ぎ、息子も金融機関に勤務しすでに家庭を持ち孫も4人いる。典型的なサラリーマン家庭の終局を形どっている。二人の子供を大学に行かせたため大きな貯金こそないが、退職金はそっくり残ったし、2ヶ月に一回受け取る年金は60万円ほど、マンションのローンも無い今使いきれないとも。そして彼は欝になった。「クリニックに行って診断してもらったら初期のうつ病だと言われてびっくりしたよ。それで、これじゃあいかんと思い近くのスーパーの警備員となった。すると、目的ができたというか生活に張り合いが出てきて、以後、ふさぎ込んだりしなくなった」らしい。この友人とは年に2回会う。故郷で開催されるゴルフコンペで。今度のお盆もきっと元気な顔を見せてくれるだろう。
賃貸屋の朴 5
マルヒは仲介屋の社長を主に、もう一人の仲介会社の社長と名義人の朴。それと、司法書士の計4名。犬鳴はとりあえず仲介屋の社長をターゲットにして調査を開始した。朝、店舗の近くで張り込んでいると、マルヒはベンツに乗って颯爽と出勤して来た。店には、女子事務員の他に男性社員が二人出勤している。この内の一人がマルヒの住民登録地のマンションにすむ男で、中年の冴えない感じの人物だった。マルヒが乗り捨てたベンツを駐車場に移動させる役目もこの男だった。マルヒの車が確認できたので、特殊工作を施して現場を離れる。
夕方、再び店舗の近くで張り込みを開始。その日の内に、マルヒの本当の住居を発見した。住民登録をしているマンションとは桁違いの超高級マンションの一室がマルヒと家族の住む部屋だった。マルヒの戸籍を見ると過去2回の離婚暦があり、現在の妻とは4年前に再婚し、3歳の女児をもうけている。依頼人が貸した500万円もこの優雅な生活を維持するために使われたのだろう。数日間尾行を行ったが、もう一人の仲介業者及び朴と接触することは無かった。一方、別の調査員からの報告で、もう一人の仲介業者は住民票のあるマンションにはおらず、経営する会社も法人登記はあるものの実体はなく、名刺の住所には、現在は勿論、過去に於いても「そんな会社が入居した事実は一切ありません」というのが管理人の返事だった。———-